
トランシーバーや無線機のレンタル・販売を手掛けるエクセリは、2025年6月より充電・メンテナンスに使用する電力をカーボン・オフセット電力へ切り替える取り組みを始めた。追加費用なしで提供される実質CO2排出ゼロのレンタル無線機は、イベント業界にとっても新たな選択肢になり得る。今回、取り組みの背景や狙い、同社のサービス体制について代表取締役社長・吉田統一氏と取締役・尾形哲氏に話を聞いた。

カーボン・オフセット導入の背景
――カーボン・オフセット電力によるサービスを始めた背景を教えてください

当社は2024年に上場し、上場企業としてもサステナブルなサービス提供が求められるようになりました。そのような中で、社会課題の解決についてどう貢献できるかを考えました。私たちができることとして、年間1000万台(延べ台数)ほどレンタルしていただいている充電式無線機の、出荷前の充電・メンテナンスに使う電力をカーボン・オフセット電力へ置き換えることにしました。これにより、実質CO₂を排出しない形で無線機を提供できるようになります。追加費用は一切いただいておらず、レンタル料金も従来と同じです。なお、充電式の機種であればすべて対象です。
カーボン・オフセットとは、企業活動で避けられずに排出されるCO₂を、森林吸収や再生可能エネルギーの活用によって相殺し、実質的に排出量をゼロとみなす仕組みである。排出した企業が「クレジット」と呼ばれる削減量を購入することで成立し、国の認証制度によって信用性が担保される。
エクセリでは、レンタル無線機の充電やメンテナンスに使う電力について、この仕組みを導入している。年度ごとの稼働状況に基づいて電力起因のCO₂排出量を算定し、非化石証書付きの再生可能エネルギーを調達するとともに、長崎県対馬市の間伐促進を目的とした森林吸収型J-クレジットを活用することで、実質的に排出ゼロを実現。2025年3月時点で算定された排出量(約2万台分)は、すでに相当量がオフセットされている。
企業には、直接排出だけでなく、調達やサービス提供に伴う「Scope3」と呼ばれる間接排出の削減努力も求められるようになっている。このような中で、エクセリは排出量の把握からオフセットに至るプロセスを第三者認証制度に沿って整備し、環境配慮型サービスとしての透明性を高めている。
――在庫する機種のうち充電式の割合はどのくらいでしょうか
8割以上が充電式です。通常取り扱う機種の多くが充電式だったこともあり、今回の取り組みにつながりました。
また、当社が手掛けるレンタル業務全体の中で、イベントは最も利用が多い分野です。サステナブルなイベントが増えている中で、私たちの取り組みをブランディングに活用していただくことも可能です。必要であれば、エビデンス(証書など)も提供可能です。イベントを“影ながら”応援するような取り組みではありますが、一つひとつ積み重ねていくことが重要だと考えています。
進化するニーズに応える体制づくりへ
――エクセリのサービス体制や強みについても教えてください
無線機の保有台数は約3万3,000台で、国内トップクラスの在庫量という自負はあります。しかしながら常に足りない状態でもあり、年間を通じて無線機が余ることはほとんどありません。
価格は最安値帯を維持しつつ、メンテナンスは毎回消毒・ダブルチェックを徹底し、出荷前には重量測定で最終確認を行います。また365日対応の体制を整え、労働基準法は遵守した上で、深夜までの電話受付に対応しています。さらに最新機種の導入や海外対応機の整備なども進めています。
――今後の需要や展望はどのようにお考えですか
レンタル市場は毎年伸びていますし、これからも堅調に推移すると思います。現在は通信方式のシームレス化に取り組んでいます。LTE、Bluetooth、Wi-Fi、衛星通信など異なる方式を一元的に接続し、長期レンタル向けに提供できる体制を整えています。
もう一つは、無線機とAIカメラなどのIoT機器を連動させることで、検知した情報を現場のスタッフへ即時に伝えられるようにする取り組みです。AIやIoT単体でも優れた機能を持っていますが、最終的に現場で動くのは人間です。そこで、AIが捉えた情報を無線で即座に共有することで、現場の動きがより確実で素早いものになります。
また現在、工場見学やイベント、観光ガイド向けには、送信機と受信機を組み合わせた翻訳機能付きの機材をレンタルしています。一方で、イベントスタッフが使うような双方向通話型の無線機に翻訳機能を組み込む形は、技術的には可能でありながら、レンタル運用の面でまだ提供に至っていません。今後は、こうした用途にも対応できるよう準備を進めていく考えです。
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