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[インタビュー]「小さく始める」が組織を変える。イベント会社のワークライフバランス
「激務」や「不規則」といったイメージが根強いイベント業界。そのような中で、展示会出展サポートを手掛けるグリフィンは10年以上前から働きやすい環境づくりに取り組み、着実に制度を整えてきた。今回は、執行役員・森本秀彦氏に取り組みについて話を聞いた。
森本 秀彦 氏
環境改善委員会の設立と社員との対話
――ワークライフバランスへ本格的に取り組むことになったきっかけは何でしょうか
森本 最初からワークライフバランスを目指していたわけではありませんでした。私が中途入社した2011年当時、社内には技術向上や事業推進のための「委員会制度」がありました。 当時の社内は「休みが少ない」「残業が多い」といった声が多く、社員が職場環境に不満を抱えていました。それならば、ということで新たに立ち上げたのが「環境改善委員会」でした。
手始めに社員に対してアンケートを取ろうとすると、当初は周囲から懐疑的な反応もありました。「この委員会は会社寄りなのか、社員寄りなのか」なんて聞かれることもありましたが、いやいや、どちらでもないよ、と(笑)。
当時はみんな遠慮して、休みを取りたいと言えない空気があったので、まずは会社として取得を推進することにしました。「有給を取りましょう」という意識付けを行い、上司が調整に動くという形をとりました。かつては年平均6日ほどだった有給取得日数が、取り組みを始めるとすぐに10日ほどに増え、今では12〜13日になっています。
制度は「人」に合わせて変えていく
――そのほかにうまくいった取り組みを教えてください
森本 子育て中の社員のための制度改善も一つずつ進めていきました。育児のための短時間勤務制度は、当初は法定通り当時の「子供が3歳になるまで」でしたが、貢献してくれている女性社員のお子さんが大きくなるにつれて、制度が合わなくなってきたのです。その都度「分かった、変えよう」と。最初は小学校入学まで、次は卒業までと、本人へのヒアリングを基に就業規則を改定していきました。
ほかにも2012年頃に発足した「イベント企画委員会」も成功例です。それまで会社主導で行っていた社員旅行や忘年会を、社員が自ら企画して提案する形に変えたところ、これが大成功しました。さらに10人以上集まったら会社から費用を出す「イベント補助金」制度も作り、フットサルやお花見などレクリエーションが活性化しました。組織を超えたコミュニケーションが生まれ、モチベーションや帰属意識の向上につながっています。
――メンタルヘルスケアについても早くから取り組まれていると伺いました
森本 以前は休職や退職が出てしまうことも多くあったので、管理職全員にメンタルヘルスに関するセミナーを行ったり、「傾聴」をテーマにした面談セミナーを行ったり、新入社員向けにはメンタル不調の仕組みを知る研修を行ったりしてきました。また、産業医や産業カウンセラーとの連携も10年以上続けています。残業が多い社員や不調気味の社員がいれば専門家につなぎ、専門家の診断結果によっては、休暇取得を勧めたり、職場異動を行ったりすることもあります。また、健康診断の受診率もここ数年は100%を徹底し、社員が心身ともに健康でいられる環境づくりをしています。
イベント業界も変わることができる
――労働環境の面では、残業削減や休日の確保はどのように進められましたか
森本 36協定(サブロク協定)の特別条項について、法律上の上限は単月100時間未満ですが、当社は「月80時間以上はやらせない」と宣言しました。また、特別条項で月45時間を超えられるのは年6回までですが、独自基準として「3ヶ月連続で超えたら産業医面談」というルールを設けました。最近では45時間を1回超えた場合でも、産業医面談の受診を対象者に促すようにしています。マネージャーには時間管理を徹底させ、部下が45時間を超過した場合は是正報告を提出させています。世の中の風潮が変わってきたことも追い風になり、今では平均残業時間は月10時間未満にまで減っています。
実は当社の母体はシステム開発などのIT事業です。ご存知の通り、かつてはIT業界も過酷な労働環境が問題視された時代がありました。IT事業の労働環境を中心に改善してきましたが、イベント部門も含めて全社一律の基準を適用したことが、結果としてこの数字につながっています。
――月10時間未満は驚異的ですね。一方で、労働時間が減ると売上への影響も懸念されますが
森本 意外にも、残業時間が減っても売上は上がっているんです。 理由として大きいのは、アウトソーシングの活用です。以前は自社で行っていた検品作業を倉庫に委託したり、現場作業を協力会社にお願いしたりして、社員が1会場につき1〜2人で回せる体制を作りました。 その分、社員たちは営業や提案に時間をかけられるようになり、結果として売上増につながっているのだと思います。
――素晴らしい成果ですが、あえて課題点を挙げるとすれば何でしょうか
森本 「みんな仕事しなくなったな」と感じることはありますかね。プライベートの時間が増えた分、仕事の修羅場をくぐってスキルを身につける機会は減ってしまいました。中堅層が育ちにくくなっているというのは、中小企業としては最高水準の制度を整えたことによる弊害と言えるのかもしれません。
ただ、採用面では非常に良い影響が出ています。人材不足と言われる中でも年間20人程度の採用ができており、特に女性の応募が増えました。制度の充実が響いているのだと思います。
――最後に、ワークライフバランスに取り組みたいと考えている企業の担当者へアドバイスをお願いします
森本 「小さく始めればいい」とお伝えしたいですね。何かやろうとすると経営者は、お金がかかると考えがちですが、お金をかけなくても「みんなで残業を1時間減らそう」「有給を1日多く取ろう」といったことはできるはずです。
また経営者の理解はもちろん必要ですが、管理職や社員自身が自分たちの問題を改善しようという意識を持つことが大切です。当社はトップダウンではなく、社員が自ら考えて改善していく風土があったからこそ、ここまで続けてこられたのだと思います。まずは身近でできそうなことから、始めてみてはいかがでしょうか。
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