[連載]展示会デザイナーはどうあるべきか。#2|SUPER PENGUIN・竹村 尚久

本記事は、展示会業界専門紙「見本市展示会通信」に掲載された連載をもとに、WEB掲載用に再構成したものです。

デザイナーの「現状」

前回、展示会が事業的に成功するためには、デザイナーが重要であることをお伝えした。

なぜデザイナーなのか。それは、成功の礎をつくる展示ブースや会場デザインを実際に考えるのがデザイナーだからだ。図面を引く、ということは単に絵を描くことではない。それぞれの寸法がどうあれば使い勝手がよくなり、来場者に訴求できるのか。それをミリ単位で考える。つまり、ブースをデザインすることは、出展者、ひいては展示会自体の「戦略」を考える、ということに他ならない。だからこそ、デザイナーのあり方、プロジェクト内での立ち位置が展示会成功には重要な因子となる。しかし、現在の展示会業界では、必ずしもデザイナーがプロジェクトの中心に立っているとは言い難い風潮がある。

〇 デザイナーではなく「オペレーター」

参考までに、当社が展示会業界のデザイナーに関して、同業の展示会関係者や、出展者等からよく聞く言葉を列挙してみよう。まず、展示会業界の方からは「デザイナーは現場に行く暇はない」「営業についていって打ち合わせに参加する」「細かな詰めなどは営業担当が行い、デザイナーはすぐ別の物件に着手する」と言った言葉をよく聞く。一方で出展者からは「言った通りにはしてくれるが、提案がない」「全然会場に来てくれない」「展示会が始まると一切顔を見せないし、見に来もしない」といった声が多く聞かれる。これらの状況・言葉に思い当たる方も多いのではないだろうか。

このことから分かることは、展示会業界におけるデザイナーの多くは既にデザイナーではなく、単に「オペレーター」である、ということだ。肩書や部署名として「デザイン部」「クリエイティブ」と名付けられていても、実質は営業や設営担当の御用聞きであり、オペレーター的作業となっている。多少言い過ぎな表現ではあるが、展示会業界の人であれば、この感覚が決して大きく外れてはいない、と感じてもらえるのではないだろうか。

では、なぜこのような状況になっているのだろうか。そこには、展示会業界におけるデザイン業務の特徴が大きく関わっている。このことを考えていくために、まずは展示会デザインという業務の特徴を見てみよう。

〇 展示会デザインという業務の特徴

展示会は毎週のようにどこかで行われている。多くの展示会が2日間で設営を行い、3日間の会期の後に即日撤去が行われている。すると、展示会ブースのデザイン業務は、毎週のように、次から次へと発生しては、終了していく。おそらく空間デザインという業務の中でもっとも動きの速い部類に当たることだろう。

当然デザイナーは毎週のように新規案件が発生し、次から次へと物件をこなしていくことになる。しかも、同時に複数物件を処理することになるので、1日にさまざまな物件を検討することとなる。私も同じことを日頃繰り返しているわけだが、感覚的には、常に反複横跳びを全力で行っている、というのが合っているかもしれない。

このような状況を聞いて、読者の皆さんはどう感じるだろうか。おそらく、相当のやる気と、自身の中での目標設定、意義の設定ができなければ、ほとんどの場合、「息切れ」をしてくる。「息切れをしやすい空間デザイン業務」。これが展示会ブースデザイン、という業務の特徴である。

さて。それでは、このような業務状況の中で、もし、現場に赴いて自身のデザイン案を確認することもなく、展示会が終了した時の出展者の反応を見ることもなく、ただただ「オペレーター」として会社の中で作業のみを続けるとどうなるだろうか。さらには、会社の中での立場が低く、あまり優遇されていない(とデザイナーが感じる)場合、どうなるだろうか。

おそらく、早々に自身の仕事に見切りをつけて、会社を去ること、展示会デザインという仕事自体に見切りをつけることを選んでしまうことだろう。

今回は、まず現在のありがちな状況についてお伝えした。実際には、本稿の内容そのままずばり、という形ではないにせよ、これに近い課題を抱えている組織も多いだろう。では、どのような業務の形であればデザイナーは働く意義ややりがいを持ってデザイン業務を行えるのであろうか。また、そもそもデザイナーはどんな能力を持ち、どんな立ち位置で業務に向かえばよいのだろうか、ここから数回にわたって、このようなことについて、考えていきたい。

デザイナーの「立ち位置」

では、どのような業務の形であればデザイナーは働く意義ややりがいを持ってデザイン業務を行えるのであろうか。本連載では今後、このテーマを主軸に置いて解説を行っていきたい。今回は、まず物件に対応するプロジェクトチームの在り方について考えてみよう。

これまでお伝えした通り、展示会が事業的に成功するためには、デザイナーの在り方が重要となる。それは単なる図面を描くという立場ではなく、プロジェクトをけん引する存在として、戦略的なデザインを作り上げることができる、という存在であるはずだ。

しかし、現在、展示会業界においては、ほとんどの組織のデザイナーがそのようなプロジェクトの「実質的な中心」となって進めている例を聞くことが少ない。デザイナーが全てを仕切っている、というより営業が全体のフレームを作り上げ、出展者の御用聞きを行い、「デザイナーがメインに立っているような印象」でプロジェクトは進む。この場合、プロジェクトの主導は出展者側となり、基本的に出展者の意向に沿って業務は進む。

〇 「成功」を実現する顧客との関係性とは

しかし、出展者を本気で成功させようと思うのであれば、その体制は間違いだと感じている。当たり前だが、出展者は展示会のプロではない。そのプロではない方の意見をそのままに従うのは業務に対して無責任なのではないか、と私は常々思っている。展示会のプロとして「その方法では成果につながらない」と判断したのであれば、遠慮せず意見を伝え、改善策を示すべきだ。このような姿勢が大切だ。つまり、出展者と設営会社の関係性が「上下関係」となっているのではなく、それぞれの専門領域を尊重し合った「対等な関係」となることが重要で、それが出展者が出展に成功していただくための根本的な基本構図となる。

「そんな対等の関係を構築するなど難しく、現実的ではない」。そのように考える方もいるだろう。もちろん、これは簡単なことではない。一社員の努力だけではなかなか難しく、経営者を含めた会社全体での体制の工夫、自社の「見せ方」の工夫が重要となるだろう。このことについては今後の記事で言及することにして、まずは、出展者に成功をしてもらうためのプロジェクトチームの在り方について、考えてみよう。

〇 プロジェクトチームの在り方

展示会は出展者に出展成功してもらうことが事業的に最も重要であることについては前回触れた。では、そもそも出展者の成功を「最優先の目標」に据えた場合、社内のその物件に対するプロジェクトチームはどうあるべきだろうか。そして、プロジェクトのリーダーはどうあるべきなのだろうか。

「成功」を目標にする以上、少なくとも出展者の御用聞きであってはならない。出展者のニーズや悩みを正確に把握し、聞き出し、適切なアドバイスを与える。そして、プロジェクトの戦略を策定する。そんなリーダーであるはずだ。すなわち、それが具体的に図面を引き、細部に至るまでのデザイン案を考えている「デザイナー」であるべきなのだ。

展示会において「成功」を生み出す結果を出せるようになるためには、このようなデザイナーが、プロジェクトチームの中心となり、成功ができるブースをデザインする。そして、そのようにデザインされたブースの意図をしっかりと把握した上で「設営担当」が戦略通りにブースをつくりあげる。さらに、そのプロジェクトが円滑に進むよう「営業担当」が全体的なフォローアップを行う。このような「戦略的デザイナー中心型」とも呼べる図式が、展示会業界においては、出展者を成功に導き、ひいては展示会、そして自社を成功に導く図式、と言えることだろう。

では、次回は、そんなデザイナーが具体的にどんな能力を持っていればいいのかについて触れてみよう。

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