[連載]展示会デザイナーはどうあるべきか。#5 |SUPER PENGUIN・竹村 尚久

本記事は、展示会業界専門紙「見本市展示会通信」に掲載された連載をもとに、WEB掲載用に再構成したものです。

「得意分野」を確立する

 企業が社会の中で生き残っていくためには、同業他社に対して明確な「差別化」を行い、分かりやすい「強み」を持っている必要がある。このことは文章として読み上げるとごくごく当たり前のこととして感じられるだろうが、実際に「自分事」として理解できている人は意外に少ないかもしれない。もちろん、経営層の方々は、このことについて日々考えを巡らせていることだろう。他社がどのような状態なのか。どのような動きをしているのか。それに対して自社がどんな強みを前面に押し出し、「生き残っていく」のか。しかし、経営層から遠ざかるにつれ、「他社と差別化をする」「強みを明確にする」といった企業戦略からは遠くなってしまい、ただ日々の仕事をこなすことだけに集中してしまう社員が多くなってしまう。自社の強み、他社との差別化といった戦略をどのように会社全体に浸透させ、全社一丸となる動きを作り上げるかは、大企業になればなるほど頭を痛める課題だと言える。

さて、前回は、主にデザイナーを中心とした社員の「モチベーション」に関して話を行った。今回はその話を発展させ、社内で「自分の得意分野を作り上げる」ということについてお伝えしていきたい。

〇 「会社」と「個人」は同じ

先程、話に上がった「企業は他社に対して明確な差別化を行う必要がある」という社会での基本法則は、会社内の人間関係にも当てはまる、と常々感じている。学生時代には「仲良し」だった同級生が、社会人になったら「ライバル」となる「他人との関係性の変化」は、誰もが経験するところではないだろうか。少々厳しく、現実的な目線で見るならば、企業において同僚はみなライバルであり、社会で言うところの「競合他社」と言い換えることができる。これは決して「企業は常に競争ばかりを行っている凄惨な場だ」と言っているわけではなく(実際にはそのような企業も多く存在するが)、多かれ少なかれ、お互いがお互いを意識しながら仕事を進めていく場であることには多くの方が共感してくださるのではないだろうか。

このように考えると、社員一人ひとりにも「他社(他者)との明確な差別化ポイントと強み」を持っていることは当然必要なことと言うことができる。実際に、先輩や会社上層部から「強みを持つといい」というアドバイスをもらった社員の方も多いのではないだろうか。そのことは、本稿のような観点からも言える。

では、どんな「強み」を持てばいいのだろうか。それはその「強み」を「専門分野」として捉え直すと考えやすい。人は全ての物事に対して専門性を持つことはできない。多くの分野について専門知識を持つためにはかなり長い年月を必要とすることだろう。しかし、ある特定の分野に対してだけであれば比較的短期間でその専門性を身に着けることができる。

例えば展示会デザイナーの場合、雑貨、化粧品、機械、IT系など、全ての分野に詳しくなるためには、多くの経験を必要とする。しかし、「私は化粧品が得意だ。だから化粧品のブースと言えば私」又は「自分はIT系が好きだ。IT系ブースと言えば自分」など、ある特定の分野に特化すれば、自身の努力次第でその分野の専門家には比較的早くなれるだろう。

〇 独立した会社のように考える

ここで、皆さんに一つの考え方をお勧めしたい。それは、自身を「1つの会社」として捉え直し、皆さんが所属している会社の中にある「1人社長の小さな会社」と考えて動いてみる、ということだ。これは、特に周囲に言う必要はない。自分の心の中で密やかに考え、日頃の仕事を進めてみてほしい。なんなら、自分ならではの会社名を考えていいだろう。もちろん、これはあくまでも「気持ちの上」での話だ。自身を1つの会社と捉えれば、当然自身の強みを意識し、他社と何が違うかを考える必要が出てくる。依頼された仕事は、「他社」に負けないように「より良い仕上げ」にし、次回もより質の高い仕事を依頼してもらえるようにクライアント(上司)に働きかけることだろう。仕事の質が高くなり、「結果」を出せるようになると、当然「金額交渉」(賃金交渉)をしてもよいのではないだろうか。これらは会社対会社であれば当然とも言える動きだ。

いかがだろうか。このように考えると想像以上に働く意義を感じやすくなるので、是非一度試してみてほしい。

と、このように書くとまるで「起業・独立」を促しているように感じられるかもしれないが決してそうではない。あくまでも社内での「心の有りよう」の話だ。

これは決して簡単なことではない。私自身も経験していることだが、「独立する」というのは、「自由になる」こととはほど遠いものだ。「勤務時間」「残業」「土日」という概念はなくなり、仕事とプライベートの境目も曖昧となる。「その企業にいるだけで安定した金額をもらえる」。このことは想像以上に恵まれていることだ。既に独立し、様々な経験をしてきた私としては、デザイナーの方々には、企業の中の「独立した会社のような自律したデザイナー」として活躍することを強くお勧めしたい。

 

「ベテランデザイナー」の活躍

前々回、デザイナーの成長を3つの段階に分けることについて触れた。出展者、そして展示会自体を「成功」させるためには、デザイナーがプロジェクトの主導を行う必要がある。デザイナーは単に「綺麗でカッコいい」デザインを行うだけでは駄目で、多方面にわたる知識と経験を持ち、展示会を「成功させる力」を持っている「ベテランデザイナー」であるべきだ、という内容だ。その「ベテランデザイナー」について話を進めていこう。

〇 「クリエイティブ管理」という名前の「教育係」

一般的な企業では40歳を超えると管理職になり、部下のデザイナーの実質的な「教育係」となる。自身ではデザインを行わずプロジェクトの調整とデザインの質の管理を行うようになる。年功序列の典型例ともいえるこのシステムは日本ならではのものといえるかもしれない。海外の組織、デザイナーを見てみると、年齢的に高い人が第一線の「顔」として活躍している事例を多く見ることができる。構成されているスタッフが全員50歳以上、というデザイン事務所も多く見られる。

日本では一定の年齢に達すると管理側に回り、実際のデザインは若手のフレッシュな思考の方がよい、という風潮がある。単にアート的な観点からの美しいデザインを成果物として求められる仕事であればそれでもいいだろう。しかし、展示会のデザインは単なるデザインではなく、「出展者を成功させる」という極めて重い使命を担っている仕事だ。経験値の浅いデザイナーが対応してしまうと、見映えがよいだけで全く集客の結果も出ず、クライアント(出展者)から微妙な顔をされてしまう可能性が高い。

さらに、社会人的コミュニケーションの低いデザイナーや「御用聞き」状態に陥っているチームの場合には「言われたことはやるけど、提案はできない」といった、展示会業界にありがちな不満を出展者に与えてしまうことになる。実際にこのような状況に思い当たる方は多いのではないだろうか。

少なくとも展示会業界では、プロジェクトの中心となるべきデザイナーは、さまざまな経験を持ち、出展者を成功させる能力を持つベテランデザイナーであるべきなのだ。

〇 「スターデザイナー計画」

そこで、この「特別な」ベテランデザイナーを会社として「創り上げる」という施策をお勧めしてみたい。どのようなことかというと、会社を挙げて、あるデザイナーを「有名デザイナー」に仕立て上げ、そのデザイナーを社外に全力で広報し、社会的な「スターデザイナー」を作り上げることを指す。スターデザイナーとして祭り上げられた本人は恥ずかしがるかもしれないし、遠慮をするかもしれない。

しかし、これは「本人を祭り上げる」というのではなく、「その人、というキャラクターを作り上げる」ということでもある。もちろん、この「スターデザイナー」はただ綺麗でカッコいいデザインを行うだけのデザイナーではない。出展者を成功させる力を持っている「熟練型のデザイナー」であることが大切だ。このような「スターデザイナー」を作り上げる、企業側のメリットを考えてみよう。

対外的に広報を行う「スターデザイナー」を社内で創り上げる。この手法は展示会業界においてクライアントを獲得し、会社を成長させる効果的な施策となる、と私は考えている。その理由として大きく2つの点を挙げてみよう。

まず1つ目は、デザイナーの成長した姿として社内に位置することで、多くのデザイナーの目標となり、仕事の「やりがい」を作り出しやすくなる、という点だ。展示会デザインの仕事がその単調さ故に「息切れしやすい業務」であることは以前述べた通りだ。そこには個々人で明確な目標を設定する必要が出てくる。社内、そして社外にも喧伝されたスターデザイナーのような存在は、社内のデザイナーにとっての「モチベーション」に、採用活動の際の「求心力」となることだろう。

もう1つの理由は、クライアント(出展者)にとっての「信頼」になる、という点だ。出展者の多くは、そのプロジェクトが最終的に成功できるのかどうか、どこか不安に感じているものだ。そのような「不安」に対して適切にアドバイスを行い、「頼れる存在」となる。そして、常に「前」を進み、彼らを成功へと導く。こうなれば、クライアントは他社と比べることもなく、そのデザイナーを直接頼ることとなるだろう。つまり、「スターデザイナー」の存在は自社の安定的な受注に大きく貢献することになる。

このように聞くと、企業にとって「スターデザイナー」を創り上げることは大きなメリットといえるだろう。しかし、一方で懐疑的な方もいるかもしれない。特に営業や、製作の方の中からは「デザイナーなんて……」と心配になる方が出てくる可能性がある。そして、私自身もその心配はもっともだと思うし、大いに共感するところでもある。そんなスターデザイナーなんて作ると、自身を勘違いする「勘違いデザイナー」が出てくるのではないか、という不安だ。そこで、次回は、このような「スターデザイナー」とはどんな存在であるべきなのかを考えていきたい。

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