コロナ禍を経て需要が戻る中、展示会の現場では在庫の回転や人員の確保、同業他社との連携など、日々の意思疎通が成果を左右する。ボックス・ワンで倉庫と営業の調整を担ってきた高橋氏に、同社の強みと業界の今、そして次世代への思いを語ってもらった。

――ボックス・ワンの強みをどのように捉えていますか
高橋 当社の核は、汎用性の高いシステム部材を大規模案件にも耐える量と品質で運用できることです。オクタノルム等のシステム部材は各種の組み合わせに対応でき、幅広い用途に転用できます。千葉の拠点で一元管理しており、東京ビッグサイト級の会場に対応でき、日程が重なっても安定した供給を続けられる。その体制が強みだと考えています。
――コロナ禍では業界全体が停滞しました。当時はどのように対応しましたか
高橋 倉庫は、戻ってきた部材で通路まで埋まってしまった。初めて見た光景でした。ただ、一時的に縮んでも、きっとバネのように戻ると思っていました。展示会場自体がなくなることはない、必ず回復すると判断し、必要な部材は仕入れを止めず、むしろ準備を進めました。結果として、ワクチン接種会場などの案件にも素早く対応でき、その後の展示会再開時にも供給を切らさずに済みました。回転率の目線で在庫を捉え、コンディション管理を行いながら、古いものは計画的に押し出す。止めないことで次の需要に備えることを徹底しました。
――繁忙期はどのようにさばいていますか
高橋 一番の肝はスケジュールです。東名阪で設営が重なることもありますが、現場は待ってくれません。営業から見れば1件の発注に過ぎなくても、倉庫には同じような依頼が何十件も積み重なり、その分だけ仕分けや積み込みの作業が発生します。実際に手を動かす負担を想像しながら全体を見渡し、案件同士を調整することが欠かせません。
例えば「現場から現場へ直送する」「同じ会場内でトラックを回す」「不足分は同業他社に協力していただき借りる/貸す」といった判断を、事前にゴールの姿を共有しておくことで即決できるようにしています。
――同業他社との「貸し借り」について詳しくお聞かせください
高橋 コロナ禍前から懸案でしたが、私が部材担当になって以降、同業の知人から「この時期だけ足りないので貸してほしい」という相談が増えました。保有と保管スペースには限界があり、必要時に融通し合うほうが双方に合理的です。
ただし同じオクタノルム部材であっても、規格の差で互換性に制約があります。中央穴径やビームの“のみ込み”寸法が異なるため、使用できる部材が他社とは合わない場合があります。例えば当社が保有しているポールは、のみ込みが片側6mmなので、それに合わせた幅962mm(950mm+6mm×2)のパネルを大量に備えています。一方で「のみ込み10mm×2で970mm」系統とは互換性がない。数ミリの仕様差で、ポールからパネルまで一式で貸せるのか、ポールだけなら貸せるのかが異なります。

――発注オペレーションで大切にしていることは
高橋 「声」です。メールだけで流すと齟齬が生まれやすい。送る前に必ず電話し、トーンも含めて共有する。会社全体のスケジュール表に案件・使用部材を記入し、倉庫側も見て気付ける状態にしておく。発注書はFAXも併用します。なぜなら、すぐに確認できる。デジタル化は当然進めますが、倉庫や現場というアナログの現実に寄せる運用を外すべきではない、というのが私の考えです。
――人材面の課題とチームを保つための工夫は
高橋 設営に携わるベテラン人材は高齢化し、一方、外国人スタッフも増えています。現場は重労働で、負担が多ければ自然と離職につながる。だからこそ、営業側が作業の“痛いところ”を理解し、負荷のかかる指示を避ける教育が要ります。難しいときは外部スタッフや派遣の力も借りることもためらいません。
人が壊れたら終わりです。たった5分の立ち話でも良いのです。直接コミュニケーションを取り、相談の声が上がる空気を保つことが、結果的に安定した品質と供給につながります。
社内だけの話ではありません。会社の外にも話せる相手を増やしてほしいとも思っています。困ったら「貸してください」「こう組めば労力を減らせる」と言い合える関係は、双方の仕事を救います。新しいことに飛びつくことも必要ですが、供給を切らさない仕組みと人間関係を整えることが結局、信頼につながると思います。
――現場に立ち続ける面白さ、やりがいはどこにありますか
高橋 展示会ブースはほぼ、オンリーワンの造作です。毎回壊して、また新しく作る。だからこそ、他社のブースでもつい作りを見てしまう。短時間でどうやって仕上げたのか、構造の工夫に出会える。若い世代にも飛び抜けた人材もいます。今でも現場に行けば毎回なんらかの発見があり楽しみでもあります。