
大阪ディスプレイ協同組合が刊行した「ディスプレイ業基礎講座―仕事の基本とリスクマネジメント―」(第2版)は、組合が創立50周年を迎えた2013年に始まった人材育成プロジェクトの集大成として2021年に初版が誕生し、法規制や業務環境の変化に対応して今回改訂された実務テキストである。組合内の新事業戦略検討委員会が中心となり、会員企業の協力で最新知見を反映。現場での実務活用を見据え、共有すべき判断基準と基本知識を整理し直す意図がにじむ構成だ。
本書は全三章。第一章「ディスプレイ業の仕事と役割」では、産業分類上の定義や歴史的背景を整理し、空間をメディアとするビジネスの社会的意義を示す。デジタル化やSDGsへの対応、生成AIの活用といった近年のテーマも盛り込み、業務領域が文化施設からIR(統合型リゾート)にまで広がる姿を具体例に描く。第二章「ディスプレイ業における業務手順」は設計と工事の両編で構成され、基本構想から精算までの流れを詳細に解説。展示会の業務フローも参考として付され、イベント業務とディスプレイ施工を横断的に理解できる。第三章「リスクマネジメント」では、安全管理と契約実務を体系化し、リスクアセスメントの三段階モデルを提示する。
とりわけ注目したいのは、リスク統制パートの実務的な踏み込みだ。例えば本書は〈リスクマネジメントとは、リスクを「事故やトラブル、失敗等が発生する危険性」と捉え、これらのリスクが具現化しないように管理する手法のこと〉と定義し、プロセスごとに想定される損害を洗い出すチェックポイントを示す。展示会施工では、短工期ゆえに発注後の設計変更が起こりがちだが、本書では予備予算の確保や発注者・各担当者との調整の必要性に触れており、施工管理責任者が現場対応をイメージする一助となる。
また第一章では、ディスプレイ業が「空間メディア創造集団」として人・モノ・コト・トキをつなぎ価値を可視化する役割を再確認し、デジタル演出による没入体験やカーボンニュートラルへの貢献など、イベント産業と重なる課題を整理している。ディスプレイ業のSDGsへの具体的な施策、生成AIによるプランニング効率化の利点とリスクを併記する点は、主催者・会場・施工各社が共有すべき情報だ。
本書の狙いは新人教育にとどまらない。施工など現場業務に加え、営業・企画・運営までカバーするため、実務者が部署横断で共通言語を持つ手がかりになる。編集部としては、展示会・イベント・MICEの現場で安全計画書や発注仕様書を作成する際の“裏付け資料”として活用する姿を想定したい。コラム的な読み物や用語解説も充実しており、読み合わせを通じて社内研修に応用するイメージが描ける。
なお、第2版の刊行に際し委員会は「本書がディスプレイ業の光り輝くNEXT STAGEへの羅針盤となりますよう、心から願っております」と述べる。現場課題や法制度は変化を続けており、施工素材や技術も日々進展している。本書が取り上げる論点の中には、今後さらに情報の更新や検討が求められる分野もある。そうした背景も踏まえ、詳細は本書に譲る。
(掲載=「見本市展示会通信」2025/9/1号 [特集] 大阪ディスプレイ協同組合 ~新体制発足~)
書名 | ディスプレイ業基礎講座―仕事の基本とリスクマネジメント―(第2版) |
編集・発行 | 大阪ディスプレイ協同組合 |
判型 | 106ページ |
定価 | 2,200円(税込) |