
「主役と脇役」で両立させる
――普段から「情報と感情」や「客観と主観」といった対比的な要素を大切にされているそうですね。空間をデザインする上での考え方をお聞かせください
松島 一見相反するものを両立させてこそ、生まれるものがあると思っています。
私は、デザインが主役のように強く主張しない空間に魅力を感じます。展示会であれ常設展であれ、空間デザインというのはあくまで中身を輝かせるための脇役であり、主役である展示物のもとへ来場者を導くガイドの役割であるべきだと常々思っています。
――デザイナーとしては、自分らしい表現をしたくなる瞬間もあるのでは
松島 デザイナーなら誰しも、表現したい、認められたいという欲求はあります。そのため、時に自己満足に傾くこともあります。しかし、独りよがりな視点だけで表現してしまうと、本来の目的からずれてしまう。
一人で多角的な分析を行うには限界があります。可能な限り周囲を巻き込み、多くの人の意見を聞き、客観的な視点を取り入れることが大切です。それが結果として質の高いデザインにつながります。
言葉と漆を際立たせる
――あえて「一歩引く」ことを実践した事例について教えてください
松島 「麗しの言ノ葉」(主催:六曜社)という企画展の空間デザインに携わりました。一般の方から募った詩歌を、日光彫職人が漆器に彫り込んで展示するという内容でした。デザイナーとしては、やはり漆や伝統工芸に見合うような、少し凝った設えをしたくなるものです。けれども主役はあくまで応募者の「言葉」であり、それらを見る来場者です。今回は徹底的に意匠を削ぎ落とそうと決めました。白い背景に白い天板、木目の脚だけという極めてシンプルな構成にしました。漆の光沢や彫りの陰影を美しく見せるためには、余計な色やデザインはノイズになってしまうと考えたからです。


――クライアントからの反応は
松島 最初は「デザインがシンプル過ぎないか、無機質で寂しくないか」と心配されました。しかし「今回は、作品の細部をより美しく見せることに焦点を当てましょう」とお話しして、賛同していただきました。
選ばれるデザインとは
――ブレない提案をするために、普段どのような準備をされているのでしょうか
松島 まずは徹底的にクライアントについて理解することですね。オリエンテーションの資料や公式サイトを見るのはもちろんですが、それだけでは足りません。さらに自発的に国内外のさまざまな情報をリサーチします。
――若手デザイナーに対して、どのようなアドバイスをされていますか
松島 私はよく、そのデザインに至った理由を尋ねます。見た目がかっこいいかどうかとクライアントの課題解決になっているかは別問題だからです。
コンペで辛いのは、デザイン評価が一番良かったのに受注できなかったときです。デザインは認められたのに選ばれない。最も悔しい瞬間だと思います。その要因はクライアントの目的と合致していなかったことが多くみられます。理解をおろそかにして作ったものは、結局クライアントの心には刺さりません。時間をかけて作ったものが、ただ「刺さらなかった」の一言で終わってしまうのは本当にもったいない。表面的な情報だけでなく、相手の気持ちまで深く噛み砕いてこそ、プレゼンの言葉にも心がこもるのだと思います。

フジヤ
セールスマーケティング本部
第1デザインプロデュース事業部 3G デザイナー
松島 美香 氏
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