
体験として機能するグラフィック
――「グラフィック×空間体験」というテーマは普段から意識されている組み合わせですか
小栗 私は大学院で環境デザインを学び、前職のデザインオフィスではインテリアやプロダクトなど、幅広い領域に携わってきました。独立して最初にカフェのブランディングを手掛けたことをきっかけに総合的にデザインすることの価値を体感しました。異なる領域を一貫した視点で設計すると、ブランドの世界観を空間体験としてより鮮明に伝えることができます。展示空間は、インテリア的な要素とグラフィック的な要素が交わる場でもあるため、常に大切にしているテーマです。
3つのアプローチから見る、世界観の作り方
――具体的な事例として「Nailtown(株式会社iro)」の空間づくりについてお聞かせください

小栗 当時はブランドリニューアルのタイミングで、新しい世界観を伝えることが重要でした。普段はオンライン販売のみで実店舗を持たないブランドである「Nailtown」が、もしリアルな場に現れたらどうなるか。展示スペースに小さな家をたくさん建て、名前の通り、ネイルの街を具現化しました。ただ、街中を歩くときと同様に「どこで何が見られるか」を示す標識が必要です。グラフィックを活用し、テスタースポットや各商品の展示場所を示しました。
意識したのは、来場者の心理にアプローチすることです。例えばサインでは、人が前に立ったときに自然とフォトスポットとして成立するように高さを設定しました。さらにパッケージも、並べると隣の箱とロゴがつながる仕掛けで、商品が一つ欠けると、ロゴが角に現れて気になるというように、陳列したときの風景まで想像することで、インテリアデザイナーならではの視点でグラフィックを機能させられたと思います。





――続いて「Keynote Sharp」ブースの事例について。非常にユニークなツールを制作されたそうですね

小栗 展示コンセプトがレコーディングスタジオだったので、それに合わせてレコード型のリーフレットを制作しました。展示会では多くのA4チラシをもらいますが、その中で丸いレコードの形は印象的で目を引きます。円がジャバラ状につながった形状は、時間がない方にはパッと広げて概要を、じっくり聞きたい方には1枚ずつめくって絵本のように説明できるようにしました。展示空間の印象をそのまま持ち帰っていただき、帰社後に見返したときにも記憶が蘇ります。


――最近手掛けた事例で「グラフィック×空間体験」が進化したと感じるものはありますか
小栗 写真・映像を主体とする「bird and insect」のブースですね。過去の出展実績から、すでに来場者からの認知度も高く、細かなサービス説明よりもブランドの空気感を伝えるフェーズに入っていました。そこで今回は、あえて文字情報は極力減らし、代わりに「光」をグラフィック的に扱いました。周囲のブースが明るい照明と大きなサインでアピールする中、線形のLED照明を斜めに走らせ、印象的な光で注意を惹きつける。そうすることで「あのブースは何だろう?」と人が集まる、創作の姿勢を体現した表現です。
普段から照明計画にはこだわっています。ブースを全体的に明るくするのではなく、「タスク・アンビエント照明」のように、必要な場所(商品やサイン)に重点的に光を当てる手法をとることも多いです。先述したNailtownでは、家型什器の屋根の中に照明を隠し、窓から光が漏れるようにしました。暖かい光に惹かれて覗きたくなる心理にアプローチしています。光の当たり方で、グラフィックや商品の印象が大きく変わります。

――今後の展望について教えてください
小栗 グラフィックと空間体験の掛け合わせは、さまざまな分野の展示ブースで効果を発揮します。そのため、これまで機会がなかった分野にも積極的に取り組んでいきたいですね。最近は、展示ブースをきっかけとして会社全体のブランディングや、常設ショールームのインテリアデザインなどのご相談をいただくケースも増えています。領域横断型で活動しているからこそ、デザインが必要となるさまざまなシーンでお役に立てると考えています。
また、近年では大規模な展示空間のデザインにも取り組んでいます。今後は、複数ブランドが出展するような大規模なゾーンの設計にも挑戦していきたいですね。小さなことから大きなことまで、多角的な視点で魅力的なプロジェクトを実現していきたいです。

イド
デザインディレクター
インテリアデザイナー
代表
小栗 誠詞 氏
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