
無意識の法則を数字でデザイン
――グラフィックデザインを手掛ける中で意識していることは
安藤 私たちの生活をよく観察してみると、多くのものが「数字」によってコントロールされていることに気付きます。例えばスマートフォンのサイズは、手に持ちやすいような数値によって設計されていますよね。同様にグラフィックデザインにも適したサイズや数字の法則があります。手元で読むには最適な文字サイズでも壁面に掲示した時には小さすぎて読めない、といったことが起こります。それぞれの環境にふさわしい数字が確実に存在していて、私たちは普段、無意識に調整したり感じ取ったりしています。そうした当たり前の法則や計算された距離・角度を利用してデザインを行うことを大切にしています。
また、心地良いサイズ感だけでなく、配色にも数字は当てはまります。インクの含有量や色指定の番号、濃度のパーセントなどですね。さらに色には、色彩心理学の側面もあり、文化圏によって異なることもありますが「黒と黄色は危険」「青は冷たい」といった共通のイメージがあります。見る人を直感的に誘導したり、感情に訴えかけたりできる。それが「記憶」とも結びついていきます。
理解できるからこそ記憶に残る
――記憶に残るデザインとはどういうものでしょうか
安藤 記憶に残るというと、アーティスティックで奇抜なインパクトを想像されるかもしれませんが、私が目指しているのはそうではありません。私たちの制作物を目にした人が、迷わずに情報を理解するための手助けをすることです。
理解できるということは、すなわち記憶に残るということ。逆に、情報が整理されておらず、どこを見ればいいのか分からない状態は、来場者にとって嫌な体験として残ってしまうか、あるいは何も記憶に残りません。
――デザインするときにはスムーズな理解を優先するということですね
安藤 もちろんインパクトも大切な要素ですが、一般的な展示会やイベントにおいては、来場者が各自の頭の中で情報を咀嚼し、理解できなければ意味がありません。
実は私自身、人よりも理解するのに時間がかかるタイプなのですが、逆にデザイナーとしての強みでもあると感じています。私でも分かるように、情報を整理してデザインすれば、多くの人にとって理解しやすいものができるはずですから。どのようなイベント形式であっても、クライアントが伝えたいことを来場者に正しく理解してもらうことが大切です。
最近、理想的なデザインだと感じたのは、大阪・関西万博のデザインシステムです。色や形といった要素がシステム化されており、全く違う場所や媒体で使われていても、誰が見ても一目で「ミャクミャク(万博)のデザインだ」と分かるようになっているんです。また会場内でも来場者への分かりやすい誘導になりつつ、同時に万博の世界観を保ったまま運用されています。
現場の気付きをデザインに還元する
――現場に足を運ぶことを重視されていると伺いました
安藤 業界に入って痛感したのは、デスク上の数字だけでは分からないことが山ほどあるということです。素材によって色の出方は全く違いますし、照明の当たり方や会場の明るさによっても見え方は変わります。
以前、メッシュターポリンという素材を使った際、想定以上に色が透けてしまい、イメージ通りに出力されなかった経験があります。数値上は大丈夫だと思っていても、実際の素材や環境では通用しないことがある。だからこそ、現場に行って「この素材だとシートが歪むのだな」や「つなぎ目が目立つ」といった事実を確認し、次のデザインに活かすようにしています。
今後も新しい素材はどんどん増えていくと思います。だからこそ、見る人の視点に立つことを忘れないようにしたいですね。空間デザインの中で、グラフィックデザインが来場者の理解を助け、スムーズな行動や記憶につながるよう、これからもサポートしていければと考えています。

トーガシ
クリエイティブ本部 東日本デザイン部
デザイン課 シニアデザイナー
安藤 静子 氏
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