
「スターデザイナー」の在り方
前回の記事において、社内に「スターデザイナー」を持つという施策をお勧めした。それにより、スタッフの定着やクライアントからの信頼を勝ち取れるのであれば、採用しない理由はないであろう。
しかし、一部の方からは懐疑的な意見が出るに違いない。その多くはデザイナーという職種に対する不信感ではないだろうか。「デザイナーを前面に出して本当に大丈夫なのか」というものだ。このような心配が出るのはもっともなことだ。私自身も大いに共感する。「スターデザイナー」として一人の社員を推し出したところで、その人が綺麗なデザインばかりに注力する「アーティスト系デザイナー」であったり、「スター」であることにただただ浮かれて更には傲慢になってしまう。そんな可能性を心配してしまうのではないだろうか。確かに、そんなデザイナーが看板になったら経営陣のみならず営業や製作もたまったものではない。
〇 展示会業界における「スターデザイナー」の在り方
まず、展示会業界における「スターデザイナー」とは、建築業界、インテリアデザイン業界、ファッション業界など他の業界のデザイナーとは違う存在になるであろうことはお分かりいただけるのではないだろうか。
展示会は出展者の成功を最優先に考えなければいけない。このことから、展示会業界の「スターデザイナー」は出展者にとっての「成功の象徴」であるべきだ。仕事を依頼する出展者だけでなく、自身が所属する「社内」、特に経営層にとっても単に美しいデザインをする人ではなく「出展者を成功させる力を持っている」人こそを求めている。それが「利益を生むため」にもっとも大切なことだからだ。
もちろん、綺麗でデザイン性の高いブースをデザインしてはいけない、と言っているわけではない。印象の良いブースをつくることは出展を成功させる観点からもとても重要なことだ。展示会業界のデザインは、「見た目の印象としてのデザイン性」と「出展者を成功させるデザイン性」、この双方を「両立」させることこそが大事なのだ。
「デザイナー」と聞くとオシャレなイメージで憧れのような印象があることだろう。しかし、デザイナーはカッコつけの象徴ではない。オシャレの象徴でもない。ましてやアーティストでもない。展示会業界のデザイナーは「出展者を成功させる」という独自の在り方を持つ「成功の象徴」であるべきなのだ。
〇 スターデザイナーの「条件」
そんなスターデザイナーが持つべき4つの条件についてお伝えしてみよう。
⒈成功させようとする強い「意志」を持っていること
スターデザイナーにとって何よりも大事なことはデザイナー自身が「この出展者を絶対に成功させてみせよう」という強い意志をもっていることだ。この意志がなければ、出展者の要望にそのまま従ったり、社内の意見にすぐに流されたりしてしまう。「出展者を成功させるのは自分だ」「自分しかできない」、このくらいの気持ちを持つことが重要となる。
⒉「成功させるデザイン」を貫き通せること
次に重要なのが、単なる綺麗なデザインではなく、どうやったらこの出展者が「成功」できるのか。常に「成功させること」を念頭においたデザイン検討ができるかどうかだ。なんとなく要件に従ったらできてしまったデザインではなく「成功するためには、こうあるべきだ」という明確な考えをもつことが大事だ。このことから多くの場合、出展者の意見や要望に対して、遠慮のないアドバイスを言う必要が出てくる。それができるデザイナーであるべきだ。ただ言った通りにするのは、デザイナーではなくオペレーターでしかない。
⒊「成功させる様々な力」を持っていること
出展者が成功する。実はこの「成功」にはさまざまな種類がある。デザイナーは、「この出展者にとっての成功はなんなのか」を見分ける力を持つことが重要だ。そして、随時的確なアドバイスを与えることができるよう、単にデザインだけでなく、キャッチコピー、陳列、グラフィックデザイン、プレゼンテーションなど様々な能力を持っている必要がある。以前にもお伝えしたが、全てにおいて深い知識を持っている必要はない。展示会デザインという分野だけであれば、それぞれの項目で言うべきことは実は限られている。それらを理解しておくことが重要だ。
⒋「経営者目線」を持っていること
「成功させる」ということは、出展者の企業を進化・成長させるということでもある。その意味で展示会ブースをデザインする際には「経営的な目線」を持っていることはとても重要だ。決算書を読み込めるまでになればベストだが、少なくとも基本的な思考の習慣として、どうすればこの企業(出展者)の売上が上がるのか、どうすればこの企業が進化・成長するのか。この視点の下に常にデザインを語ることができれば確実に相手の信頼を得ることができる。
スターデザイナーとは単にデザイン能力ではなく、むしろデザイン能力以外の素養こそが大事であることがご理解いただけるのではないだろうか。このような存在であれば、出展者からは大きな信頼を得られるだろうし、それだけでなく、社内の経営陣・営業・製作、全ての立場から信頼される、頼られる存在となることだろう。
「スター」と言っても、単に「デザイン大好き」「かっこいい自分がいい」だけでは、出展者にも社内にも貢献はしない。クライアントを「成功させる力」を持った、「成功の象徴」のような存在だからこそ、クライアント(=出展者)から信頼もされるし、社内からも評価をされる、ということになる。
では、スターデザイナーを社内でどのように扱うべきなのか、この辺りについてお話をしていこう。
まず「スターデザイナー制度」のようなものを社内で浸透させるためには、社内の理解が重要となる。展示会業界では、営業や製作担当をはじめとする社内の中に「デザイナー」と聞いただけで「ビジネスを理解しない人」「下の存在」というイメージを持つ人もいると聞く。「個々の人間」ではなく、「特定のカテゴリーそのものへの拒否感・嫌悪感」はときに、大きなトラブルの原因になることだろう。そのような人にこそ、改めて「デザイナーはどうあるべきなのか」を深く理解して、社内のデザイナーがそうなるように導いていってほしい。
展示会業界において「スターデザイナー」が生まれる組織とは、「デザイナーはどうあるべきか」が「正しく把握」され、デザイナーに対する「理解」があり、尊重されている組織だろう。そして、第3回の記事でも述べたが、そのデザイナーが成長していく環境・制度が整っていることが大切となる。社内の雰囲気として、デザイナーを下に見ている風潮があれば、それが一番大きな弊害となり、そうならないためにも、まずデザイナー自身が成長し、社内で自身の力を「自身で証明」していくことが重要だ。ここで、以前記載した第4回の記事の内容が重要となってくる。
〇 スターデザイナーを「創り上げる」
次に「スターデザイナー」になる人が決まった際にやるべきことをここから述べてみよう。
「スターデザイナー」という存在はクライアントをはじめとする「社会全体」から認められ、評価を受ける必要がある。そうでないと、そもそもの効果を発揮しないためだ。だからこそ、ただただ「スターデザイナー」的な肩書を記載した名刺を持つだけではほとんど効果はない、と考えた方がいい。
では、どのようにするべきか。まずやるべきことは、そのスターデザイナーをPRする「専用のホームページ」をつくることだ。それも既存の自社ホームページ内に設けるのではなく、専用のドメインを持った独立したページであることが望ましい。これは、大企業が社内ベンチャーを立ち上げた時の行動によく似ている。昨今、さまざまな企業が社内ベンチャーとしての関連会社を作っているが、その多くは一見して、その大手企業とは何のつながりも感じないような独立したイメージをつくり上げている。
スターデザイナー専用のホームページをつくるためには、当然本人の宣材写真を撮影する必要がある。これも、社内のどこかの場所で別の社員が何となく撮る、ではなく、専門のフォトグラファーにスタジオで撮ってもらうことだ。当然スタイリストも必要となる。このときの服装、表情でクライアントの印象は大きく変わる。クライアントにどう感じてほしいのか、そのデザイナーの性格などを踏まえて「印象」を作り出す必要がある。この宣材写真とデザイナーの名前を全面的に掲げた専用のホームページをつくることが会社としての「スターデザイナー発信」の第1歩となる。
このような動きをするとスターデザイナー候補にとっては恥ずかしく感じたり、遠慮する人が出てくるかもしれない。しかし、これは成果のためには必ずしなければいけないことだ。もし、恥ずかしいと思うのであれば、自身をPRするのではなく、「自分と同じ名前のキャラクターを作り出す」というつもりになればいい。世の中の芸能人などは、ほとんどがこのようにして「キャラ」を作り出している。
〇 「体制」をつくり上げる
次に、「スターデザイナー」をうまく稼働させるために、会社として、日頃のさまざまなことを全面的にバックアップする必要がある。それは単にスターデザイナーとしてのデザイン業務を遂行するチーム体制をつくる、というだけでなく、公式SNSの発信やプレスリリースなど、広報的なことも行うことが大切となるためだ。広報担当がいないのであれば、誰か社内の一人がその役割を担う必要がある。デザイナーを社会に喧伝するためには、思っている以上に多くのことをしなければいけない。そして、それはデザイナー個人で行うには限界がある。芸能事務所にはそれぞれのタレントにマネージャーがいるように、スターデザイナーには、その「キャラクター」をバックアップするチーム編成を必要とする。
スターデザイナーを生み出すとき、その効果を最大限に発揮するためには想像以上の労力を必要とする。しかし、このような存在・制度を設けることで、展示会業界に在籍する多くのデザイナーにとっての求心力、影響力、等を考えると、業界全体としても行うべき施策なのではないかと感じている。
以上、今回はスターデザイナーを会社として取り入れる際のポイントをお伝えした。これらのことを聞くと、「そこまでする必要があるのか」と思われることだろう。しかし、実はこれらのことは独立し、自身の会社を立ち上げたデザイナーにとっては珍しい話ではない。私に限らず、社会的に活躍する建築家やインテリアデザイナーは皆行っている。
そして、世の中の独立したデザイナーはこれらを、自身を含めた少人数のチームとしてやっているのが現実だ。組織に在籍していると見えない景色だが、独立したデザイナーにとっては当たり前のこのようなことを企業として行うことはとても意義のあること、と考えている。
さて、このような記事を書くとデザイナー達にやはり独立を勧めているように見える、と誤解される人がいるかもしれない。そこで、次回は「独立する」ということの実際をお伝えしてみよう。
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