今回から5回にわたって、私がこれまでブースデザインという領域で試してきたことについて解説していきたい。これらは、これまでの展示会業界の慣習に照らせば、「いやいや、それはだめでしょう」と言われるものばかりだ。特に展示会業界の経歴が長く、経験値が豊富だと自負する人ほど否定する気持ちは強いに違いない。
しかし、本記事では、実際に自社設計のブースで試してみて、複数回成功したものについて述べる。これまでの慣習とされているものが本当に正しいのか。考え方によっては実は最強の結果を生み出す手法になり得る。そんなことを記事にしていければと考えている。
初回となる今回は、昨今会場に増えてきた「シンプルなブース」について述べてみよう。
昨今、形態的にシンプルなブースが増えてきた。少なくとも、以前のようにブース製作にふんだんの金額をかけ、凝ったブースにする、ということはなかなか難しい状況になってきたのではないだろうか。しかし、このことは、決してマイナスなことではない。設営会社にとっては、設営費を抑えることができるため、むしろ喜ばしい流れではあるはずだ。
ただ、ここで多くの人が抱く疑問や不安は、そのシンプルにつくったブースでは来場者を集められないのではないか、ということだろう。結論から言えば、シンプルに製作したブースでの集客は十分に可能だ。いや、むしろ「派手にして集める」という手法でブースをつくる時よりも、高い結果を出せる可能性がある、と思っていい。このことは、長く展示会業界にいる人ほど、にわかには信じがたい、いい加減にも感じる考え方だろう。もちろん、このことには条件が付く。それは、「ただシンプルなだけのブース」では集客に失敗する、ということだ。より高い結果を生み出すブースは、様々なことを計算に入れてつくられた「戦略的シンプル」なブースだ。
戦略的シンプル。それは、ブース形状や展示台の位置、キャッチの言葉の内容やその表記方法など、全てのデザイン要素を来場者の「心理」を軸に構築したブースとなる。来場者に「どう思ってほしいか」を起点として各部のデザインを考えているので、ただ闇雲に派手にする、目立つようにする、という抽象的なものではなく、全ての部分に「意図」がある、余計な装飾を施さないデザインとなる。形態的に派手にして来場者を集める手法は、ターゲットとなる来場者の機微を捉えた精緻な検討というより、見た目的なインパクトによって集客をしようとする。そのような場合、細かな計算というより、全体としてざっくりとデザインを派手にする、という手法がとられることになる。
シンプルでつくられたブースが、来場者をより多く集められるのであれば、それは出展者にとっても、設営会社にとってもよい考えのはずである。そのためには、これまで以上に来場者の心理を緻密に考え、ブースに反映していく必要がある。
これからの残り4回は、この来場者心理をベースにしながら、様々な「慣習的にはあり得ないこと」について、解説をしていこう。
竹村 尚久|NAOHISA TAKEMURA
SUPER PENGUIN
代表取締役/展示会デザイナー