
2026年9月18日から27日まで、東京ミッドタウン八重洲の1階アトリウムで「ポケモンと考える アート・環境教育展 in 八重洲」が開催された。多摩美術大学の学生が、身の回りにあるものを素材にしてポケモンの立体作品を作り、会場には50体以上が並んだ。今回、会期終盤に会場を訪ね、プロダクトデザインを教える濱田芳治教授の案内で、作品を見ながら話を聞いた。
素材が見える、というルール


展示作品は、塗装をせず、パテで継ぎ目も埋めず、何でできているかが見て分かることを原則としている。素材の色と質感がそのまま作品の表情になるため、作り手は色の近い素材を探すところから始めることになる。ピカチュウを作ろうとしても黄色い素材でなければ、異なるポケモンに見えてしまうだろう。形も原作に完全には合わせられない。素材が見えなければならない以上、削って整えるにも限度があるからだ。
濱田教授が語ったのは、似せること自体が目的ではないという点だ。原作の形に寄せるだけなら、塗って整えれば済む。求められているのは、何で再現するかという選択のほうだ。
作品には、素材まで含めた名前がつく。例えば「UPCYCLING SCULPTURE ピカチュウ / 配線コード」といったように。ポケモンの名前は元ネタを示すもので、作品そのものはアートピースとして作られている。展示台には公式のイラストが添えられ、どのポケモンへのオマージュかは一目で分かる(そのイラストがなくとも分かるほどに再現度は高い)。それゆえ、来場者の関心は何でできているのかに向かう。作品名に並ぶ素材と実物を見比べていくうちに、ポケモンを見に来たはずの人が、素材を眺めている。
















授業の中でどう作られるのか
作品は、プロダクトデザインの授業課題として制作されている。何を作るかは、学生が自分で決める。先にポケモンを決める学生は、好きなポケモンから入る。一方、素材から入る学生の中には、候補を2、3体挙げて当たりをつけながら絞っていく人もいる。
折に触れて、濱田教授が学生に対して促すのは、身の回りのものを別の何かに「見立てる」という視点だ。廃材や身の回りのものが本来の用途を離れて、ポケモンの体の一部になる。学生たちは、そんな目で素材を探し、ポケモンの姿を見つけていく。
作り手に聞く


「UPCYCLING SCULPTURE パピモッチ / ボウリングピン、加湿器、ぬいぐるみ」を作ったのは、卒業生の佐々木捺帆さんだ。制作したのは在学中だ。会場で当時の話を聞くことができた。
出発点は、作りたいポケモンだった。ゲームで遊ぶうちに好きになったキャラクターで、先にポケモンを決めてから素材を探した。素材から入るアプローチなら、1000体以上いるポケモンの中から手元のものに似た一体が見つかるかもしれない。佐々木さんはその逆で、決めた一体に合う素材を探しに行った。
パピモッチは「酵母を体内で育てている」ポケモンで、ベーグルのような耳を持つ。佐々木さんの作品は、最初は寝そべった姿勢をしていた。体に硬い素材を使って自立する形に改めたのは途中からだ。もちもちした質感を出したくて、ぬいぐるみのパーツを使ったが、ぬいぐるみに見えすぎると、かえって作品としては成立しなくなる。「布を使ってしまうと、何でも作れてしまう」。だから足にはボウリングのピンを選び、硬い素材の手触りを残した。
ピンにも加湿器にも、大きさの壁があった。丁度良さそうな素材を探して当ててみると、イメージに合わなかったり、少し大きかったりして、その度に探しに行った。
教室では学生たちが隣同士で作業していて、互いの作品を見ながら素材の話をすることもあった。佐々木さんも、友人が制作中のものを見て「これ使えそうだけど、いる?」と声をかけた。その素材はある作品の頭の部分に使われた。
素材の一部は海から
使われている素材の中には、佐賀県波戸岬で拾われた海洋プラスチックごみもある。濱田教授は、一般財団法人ポケモン・ウィズ・ユー財団が佐賀県波戸岬で実施した「ポケモン ピカピカ団」のごみ拾いのイベントに参加し、拾った海洋プラスチックごみの一部を大学に持ち帰った。その後、佐賀県の人たちにも協力を頼み、段ボール数箱分の海洋プラスチックごみが大学に届いた。ラプラスの作品には、その中の漁網も使われている。メタモンやシャリタツの(寿司の)シャリの部分にも、海で拾われた漁網が使われている。



体験の奥深さを支える、ポケモン側の懐の深さ


会場では、親子でも恋人同士でも友達同士でも、来場者が交わす話題は「どんな素材が使われているのか」「どのポケモンが展示されているのか」が多かったという。
本展示のねらいの一つは、環境への「アンテナ」を立てることだ。小学校高学年になれば、学校でSDGsを学び始める。その年代の子どもが、ポケモンを入り口にして環境問題にも関心を向けるかもしれない。そして、何が引っかかるかは人によって違う。
人に足を止めてもらうには、きっかけが要る。脳科学の観点でいえば、好きなものは記憶に残りやすく、自分の好きなキャラクターはきっかけになりやすい。
「虫が好きな人は、カマキリを一匹見つければ、その日どころか、ずっと覚えている。シーズン中に何匹見つけたか、という話にもなる。でも、あまり興味のない人は『カマキリがいた』くらいでしかない」
ポケモンのようなキャラクターは、そうした強い記憶の入り口になる。そこに良い体験や環境問題、工夫して作る力、ものを良く見る力が結びつけば、あとに残る価値のあるものになる、というのが濱田教授の考えだ。
本取り組みに対して、ポケモン側(一般財団法人ポケモン・ウィズ・ユー財団)は主催ではなく協力という立場から、学生たちの自由な発想や創造力を最大限尊重しながらの監修協力を行っている。

「作る」ことの意味
本展示の核にあるのは、作るという行為そのものだ。「作ることには、作った喜びと、作っている喜びの二つがある。作っている時間そのものが楽しいと感じられなければ」。展示が扱っているのは環境問題であると同時に、作る時間の面白さでもある。
作品への評価にも同じ考えが表れている。濱田教授は、作品が元のポケモンに似ているかどうかよりも、学生が課題を通して伸びたかどうかで点数をつける。造形が美しいに越したことはないが、自分の中にあるものをどう形にして出したかのほうが、表現する人の才能としては大切だという。
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本イベントは終了したが、今後、多摩美大・上野毛キャンパスのギャラリーで、今回並んだ作品に加えて、これまでに作られたすべての作品と新作を並べる展示を予定している。
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余談になるが、この記事を書いている最中、プリンターのトナーを交換した。会場であれだけ刺激を受けたのだから、外した空のカートリッジを何かに見立ててみようとしばらく眺めた。だが、何も思い浮かばなかった。あるいは、鼻をかんだティッシュなら……いや、もうやめておこう。
(文=木下 慧輔)





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