
大阪国際経済振興センター(インテックス大阪)は 8月4日、「インテックス大阪 安全大会2026」を開催した。9回目の開催となる本大会は、回を重ねるごとに協賛企業・団体が増加しており、今回は過去最多の66社・団体となった。主催者やサポート企業をはじめ、東京ビッグサイトや幕張メッセ、パシフィコ横浜など全国の主要な展示会場も協賛し、業界全体で安全意識向上の機運が高まっている。
ヘルメット着用の重要性を強調
大会では、中央労働災害防止協会(中災防)による講演やインテックス大阪による新ルールの説明、日本展示会協会(日展協)安全対策委員会による意見交換、日本ヘルメット工業会による正しいヘルメットの選び方の解説が行われた。
開会にあたって、大阪国際経済振興センターの長沢伸幸理事長が挨拶に立った。理事長は今年9月からヘルメット着用の厳格化、さらには「安全作業計画書」を新設し、2027年4月から正式運用に移行する方針を明らかにした。その上で「作業現場に出入りするすべての人がヘルメットを着用することが、安全上望ましいことは明らかだが、インテックス大阪という会場において、どのように具体的に運用していくかについては、本日皆様のご意見をいただきたい」と述べ、現場の声を踏まえながら制度を作り上げていく姿勢を示した。
多数の事業者が同時に働く「混在作業場所」
中災防近畿・大阪安全衛生総合サービスセンターの閨一繁参事が「労働災害のない安全な現場をつくるために」と題して講演した。
閨氏はまず、主催者が負う安全配慮義務の重さについて言及した。万が一重大な労働災害が発生した場合、主催者は業務上過失致死傷罪等の刑事責任や作業停止等の行政処分を問われるだけではない。数億円規模の損害賠償に発展しうる民事責任やニュース報道による企業の信用低下といった社会的責任をはじめとした多くのリスクを負うと警告した。
展示会場は主催者だけでなく、出展者、協力会社等、多数の事業者が同じ場所で作業する「混在作業場所」である。法改正(2027年4月施行)により、1つの場所を管理する作業場所管理事業者(=主催者)には、労働災害を防止するための安全措置(連絡調整等)が義務付けられる。対象は、雇用契約の有無にかかわらず、現場で働くすべての人(個人事業者等を含む)に及ぶため、自社の社員だけ見ていれば良いという考え方は通用しなくなると指摘した。
また法改正により、個人事業者等自身に対しても「安全装置を備えない機械の使用禁止」「定期自主検査の実施」「危険・有害な業務における安全衛生教育の受講」が義務付けられ、主催者や出展者が仕事を依頼する際にもこれらの記録や資格を確認するよう求めた。
講演の終盤では、展示ブースの設営中に発生した実際の労働災害事例が紹介された。高さ3メートルほどのパネルを2人で組み立てていた際、声かけや合図などの意思疎通が不十分であったため、パネルが外側に倒れたという事例である。外側にいた作業者がとっさに両手で支えようとしたものの、足がもつれて後方に転倒し、床で後頭部を強打して脳機能障害(脳挫傷)を負う大事故となった。
当時、被災者は「たぶん、大丈夫だろう」という理由で持参していたヘルメットを着用していなかった。労働安全衛生規則(第151条の74)では、労働者自身にも保護帽を着用する遵守義務があり、これを怠って被災した場合は労災保険の支給制限や賠償額の減額等の可能性もある。閨氏は「スーツがビジネスの正装であるように、危険な現場ではヘルメット着用が正しいマナーである」と述べ「イベントの成功は、全員が無事に家に帰ってこそ成立する」とヘルメット着用の重要性を改めて強調した。

ヘルメット規定「任意・推奨・必須」の運用
大阪国際経済振興センター インテックス事業本部の長内克幸部長(営業・催事運営担当)が「ヘルメット着用の厳格化について」と題し、新たな運用方針を説明した。
長内氏は、閨氏の講演でも触れられた労働安全衛生法の改正(混在作業場所における措置対象の拡大)を踏まえ、インテックス大阪が抱える課題を指摘した。展示会現場では、主催者から基礎施工・電気会社へと連なる系統と出展者から施工・運送会社・一人親方へと連なる系統が複雑に併存している。
長内氏は、インテックス大阪では特に現場で実作業を担う運送会社や一人親方の事業者において、事故や不安全行動が多発している実態を明かした。同じ場所・時間帯で、床での配管、地上でのパネル立て、パネル上での配線、その下での陳列作業が同時に行われるため、現場全体で安全意識を統一することが極めて難しい。そのため、事前のスケジュール調整や信頼できる施工会社の選定といった対策に加え、現場での安全パトロールや放送、サインによる注意喚起が不可欠だと訴えた。
近年発生したテールゲートリフター作業時の事故についても具体的な状況が共有された。トラックからの荷下ろし作業中、台車(木工パネルを高く積載)がリフト上で斜めに振れて地上に倒れ込み、支えようとした作業員が下敷きになり右足打撲(全治2週間)を負った事例である。現場にはヘルメットを着用していない作業員もおり、積み荷の重量や落下位置、頭の打ちどころによっては死亡災害にもつながりかねない事案であったという。
こうした背景がある一方で、多様な利用形態がある会場の特性を考慮し、一律にヘルメット着用を義務付けるのではなく、現場の危険性に応じて着用レベルを変える柔軟な方針を示した。信号機のカラーになぞらえた青色の「任意」、黄色の「推奨」、赤色の「必須」の3段階が設定される。
青色の「任意」 混在作業がなく、危険性も低い場合。
※任意と判断する条件として「危険性を伴う作業がない(平地・単独・軽微な作業)」「安全区画が明確に整理されている」「通路幅が確保され視認性が高い」「大まかな施工を終えた後の局所的な作業である」の4点が挙げられた。
黄色の「推奨」 混在作業があり、危険性がある場合。
赤色の「必須」 混在作業があり、危険性が高い場合。
運用を確実なものにするため、新たに「安全作業計画書」の提出も導入される。主催者と安全管理責任者が事前に「作業内容の整理(STEP1)」「危険予知(STEP2)」「安全対策の策定(STEP3)」を計画し、現場へ周知させる。
インテックス大阪は、今月からヘルメット規定および安全作業計画書の試験運用を開始し、現場の意見を踏まえながら2027年4月から本格運用へ移行する。試験運用にあたり、各展示館事務所には無料で利用できる常設ヘルメットが配置されるほか、不足時のために販売用ヘルメットやヘルメット用インナーキャップも用意されるなど、現場へのサポート体制も整えている。
主催者・施工者・会場が議論「誰に、どこまで着用を求めるか」

大会の中盤では、日展協安全対策委員会によるパネルディスカッション「ヘルメットを被ろう インテックス大阪の取り組みと実現に向けて」が行われた。主催者の立場から川村知哉氏(RX Japan執行役員 会場運営本部長)が、施工者の立場から渋谷紀之氏(マッシュ代表取締役社長)が、会場の立場から永田伸幸氏(大阪国際経済振興センター インテックス事業本部部長/施設管理担当)が登壇し、それぞれ率直な意見を交わした。
ブース壁面の倒壊や車両の積み下ろし作業時のヒヤリハット等、実際に起こりうる事故事例が共有された。また、過去に他の展示会場でヘルメット未着用に関連する事故が発生したことで、業界内で安全対策の協議が本格化する契機となったことや約10年前からインテックス大阪側と安全対策について話し合ってきた歴史も触れられ、今回、施設側が具体的な運用へ踏み出したことが評価された。
パネルディスカッションの中で論点となったのが「誰に、どこまでヘルメット着用を求めるか」という適用範囲の難しさだ。施工を伴う危険な作業での着用は当然としつつも、施工が終わったブースに展示物を置くだけの出展者にも同じ基準を適用するのかについては、現実的な運用検討が必要だとの意見が出た。しかし展示会では、自社ブースの準備が終わっていても、隣接するブースでは施工が続き、上部で作業が行われているケースがある。本人の作業内容だけでは危険性を判断できないのが、展示会特有の混在作業のジレンマといえる。
さらにヘルメット着用の最終的な目的は、着用率を上げることではなく事故を減らすことであるとの本質的な指摘がなされた。着用を呼びかけるだけでなく、事故件数の指標を検証し、事故が減らなければ対策そのものを見直す必要があること、そして現場の納得感を伴う形でルールを定着させていくことの重要性が語られた。
ヘルメットの選び方と正しい着用法
日本ヘルメット工業会の原工司氏は、実務的な観点からヘルメットの選び方と注意点を解説した。まず、必ず国家検定に合格した検定品を使用し、高所作業用や電気工事用等、作業内容に適した製品を選ぶことが不可欠であると述べた。
また、展示装飾への傷付きを防ぐヘルメットカバーや身分証をセットできるクリップ式カードホルダー等、展示会特有の悩みに対応する製品も紹介された。一方で、暑さ対策のためにヘルメットの下にタオルや帽子をかぶる行為については、視界不良や墜落時の脱落につながるため極めて危険であるとし、推奨しないと明言。あご紐やサイズ調整機構を活用し、頭へ直接正しく装着することの重要性を呼びかけた。
安全は現場にいる全員でつくる
大会の終盤では安全標語の表彰式が行われた。最優秀賞には「『これくらい』 省いた手順が 事故を呼ぶ」が選ばれた。この標語は今後1年間、インテックス大阪の施設内で掲出し、安全作業を呼びかけるスローガンとして活用される。最後に、ユニティー代表取締役社長の林洋一氏が安全宣言を読み上げ、大会は閉幕した。
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多数の事業者が同時に作業する展示会の現場でヘルメット着用のルールを定着させるための取り組みが、インテックス大阪で始まった。施設や主催者、施工者、出展者が一体となって混在作業の安全管理体制を構築し、これからも「すべての人が無事に家に帰る」という最も重要な目的の実現を目指していく。
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