
「学び」の理由
今回は「自分の能力をつくる」ということについて考えてみたい。学生時代は、言われたことを勉強して、テストを受けて、という「どちらかと言えば受け身」でいろいろなことを学んできた。
言うまでもないことではあるが、学生と社会人は異なる。会社は学校ではないので、社会人になると必要なことは自分で学んでいかなくてはいけない。会社にとっては、その人が「現在持っている能力」が評価の対象であり、「報酬」の対象となる。このことは海外では如実だ。
しかし、日本では会社に所属してさえいれば給料がもらえ、分からないことは「会社が教えてくれる」という風潮が根を張ってしまっている。この「誤解」が雇用する側と雇用される側にとって、大きな問題となることも多い。
会社は基本的に、教えることはしない。新人の際の「新人研修」はあるだろうが、これは業務をこなすための基本を伝える、という機能でしかない。その後の社会人の人生は、自分自身で何を学び、どう成長していくかを考え、自身で動かなければ周囲に置いていかれることになってしまう。そのためにも、自分自身の知識・能力をどう作り上げていくのか、という課題は社会人である以上、常に自身の頭の中で考えなければいけないこととなる。
〇どんな人生にしたいのか
このように聞くと「社会人である以上、常に勉強を続けなさい」と強要されているように聞こえ、拒否感を感じる人もいるかもしれない。「なんでそこまでしないといけないのか」と。確かに、敢えて何かを学ぼうとしなくても、自然に仕事はできるようになるだろう。ただ、このような場合、大抵は「学ぶ」という意味を誤解している可能性がある。
「学ぶ」ということは、本来的にも会社に強要されるものではない。人の仕事に対する向き合い方はさまざまだ。だから、会社起点ではなく、自分起点で考える方がいいのではないかと考えている。つまり、自分がこの先どんな人生を送りたいのか、どんな人間になりたいのか。このことをしっかりと考え、そのために、いま目の前の仕事にどう向き合うことが最良なのか。
そして、そのためにはどんな能力を身に着けていればいいのか。このように自分自身の人生から逆算して考えるとよいのではないかと感じている。
さらに言えば、自分自身のモチベーションを高めるために必要なことを学ぶ。このことも、大切なことだ。
何かを学ぶ、ということは、自分自身の状況を改善するために行う行為だ。モチベーションが上がるようにする工夫。仕事を楽しくする工夫。そのために何を学ぶか。このような視点に自身を変換することができれば、日頃の動きはまた大きく変わってくることだろう。
〇能力を高くする理由
若手の人から「どうやったら仕事が楽になりますか」という質問を受けることがある。私は「仕事ができるようになることだよ」とお伝えしている。おそらく上層部の方は「そうそう」と、共感してくださるのではないだろうか。「仕事ができる」ようになっていれば、周囲からも信頼され、仕事を任されるようになる。
つまり「誰かの下」でアシスタントのように業務をするのではなく、自身の判断でさまざまなことを行えるようになる。能力を持っている自分の意見も聞いてくれるようになるだろうし、何より自分の作業をある程度自分のペースで進められるようになる。反面、「仕事ができない」ままだと、能力に対する信頼がないので、言われたことをやるしかない。ミスをすれば叱責を受けることになる。自身がやっている業務を四六時中、社内の方に管理されることになるため、なかなかに窮屈な思いをするかもしれない。
「仕事ができるようになる」ことは、自分の環境をプラスに変換することができ、仕事ができないまま、もしくはただ言われたことをやっているだけの状況は、自身の環境を基本的にマイナスの状況下に置き続けることになってしまう。
そうならないためにも、自身で「自分の能力をどのように作り上げていくか」は、向上心のあるなしに関わらず、社会で働いている以上、重要な行動となる。
〇「仕事ができるようになる」の意味とは
「仕事ができるようになること」といっても、抽象的でイメージができない人も多いのではないだろうか。その場合、本連載の第9回を参照してほしい。つまり「自分ならではの得意分野を持つ」ということだ。「仕事ができるようになる」を「自分しかできない得意分野を確立する」に読み替えてみるとイメージしやすくなるのではないだろうか。社内に「このことは彼に聞けばいい。この分野は彼女に任せよう」となれば、さまざまな意味で、自分をとりまく環境は一変する。そのためにも「自分らしい特徴」を身に付けるべく、学びを行うのは、自分自身の仕事を楽しくするためにも意味のあること、と言える。
日本では「勉強」という言葉の意味を誤解している人が多いのかもしれない。日本的な教育システムでは、どうしても「勉強」という言葉を毛嫌いする人を増産している印象がある。本来、勉強というのは、自分が知らないことを知ることであり、今できないことをできるようになることと言える。
例えば、お気に入りのドラマの製作背景を知って新鮮だった。これも言ってしまえば「勉強した」ということになる。こんな前向きな「勉強」を是非、日頃の業務の中にも取り入れていきたい。
〇デザイナーの「学び方」
何かを学ぼうとするとき、人によっては「とりあえず学校に行こう」と考えるかもしれない。しかし、それはお勧めしない。まずは「独学」で始めることがいい。しかも、思い立ったらすぐに、その瞬間から始めてみることだ。
「学校に行く」という言葉は、発するだけで知識が手に入った気になる魅力的な言葉だ。しかし、学校に行こうが独学であろうが、結局自分自身で考え、自発的に動かなければ知識は手に入らない。学校が良くない、と言っているのではない。専門的な技術や知識を学ぶために行った方がよい場面は多々ある。そうではなく「学校に行けば何とかなる」と無意識に「他人任せ」にしてしまっていることが問題なのだ。「学び」という行為は「自身が自発的に、積極的に行動を起こす」ことを前提としている。
「社会人になったら、お金を払って学ぶのではなく、お金をもらって学ぶことが大事だ」と昔上司に教わったことがある。このことはとても重要なことなのだと思う。「仕事力」を高めるためにもっとも効率的で、もっとも効果のある勉強方法は、日頃仕事を進めていく中で、分からないこと、知っておいた方がいいと感じたことを「その場で調べていくこと」だ。まとまった時間を別に確保して学ぼうとすると、自身のプライベートな時間を大きく削ることになってしまう。しかも、大抵の場合、忘れてしまって、結局やらなくなってしまう。
最近では、AIのおかげで調べることが簡単にできるようになった。疑問に感じたことはその場ですぐに調べる。それだけでなく、業務を進める上で「知っておいた方がいい」と感じたことも、その場ですぐに調べる。このことはシンプルだが極めて重要な習慣だ。
私の場合、調べたことは、アプリの「Notion(ノーション)」にまとめるようにしている。1度調べただけでは忘れてしまうこともあるため、重要なことはアプリに書き込んでおくといつでも振り返ることができる。
このことを日々積み重ねていけば、気が付けば想像以上に力がついていることを実感するときが来るはずだ。社会人にとっての勉強とは、日々の小さなことの積み重ねなのだと感じている。
〇 「展示会デザイナー」の学び方
それでは「展示会デザイナー」が自身の力を高めるためには何をすればいいのだろうか。私はまず「現場を観察することを徹底的に行うべき」と考える。自分がデザインした物件を設営時から現場で確認し、自身で描いた図面がどうなったのかをその場で確認する。図面段階で追い切れていないディテールはないか。自身で検討した寸法が本当に正しかったのか、など。これらを現場で細かく確認していく。
そして、会期が始まったら、自身がデザインしたブースの近くに立ち、1時間、2時間、3時間と観察を続けることをお勧めしたい。自分が考えたようにブースが使われているか。来場者の流れは予測通りか。その他使い勝手に問題はないか、などを観察しながら検証していく。手には図面を持ち、気が付いたことを常に書き記していく。観察を始めた最初の10分、20分では何も思い浮かばないかもしれない。
しかし、1時間、2時間、と見ているうちに、さまざまなことに気が付くようになってくる。私もブースデザインを始めた頃は、毎回ブースの前に立っていた。そして、成果を出すためには、ただデザインをするだけではだめで、待機方法が大事であること、キャッチコピーの内容が重要であること、陳列の在り方が重要であることなどを痛感し、その都度、必要な知識を調べてきた。
実は、この「観察する」という手法を思い知ったのは私が学生の頃だった。
学生時代、建築を学んでいた私は、全国の建築を見て回ろうとユースホステルに泊まり歩いていた。ある時、日光東照宮の近くのユースに泊った際、外国人の方がいた。話をしてみるとイギリスから来た建築家、とのこと。「同じだ」と感じた私は、日光東照宮を見てどう感じたかを聞いてみた。
すると「僕はずっと見ていた。はじめは分からなかったが、徐々に分かってきた」と答えてくれた。その言葉は当時はとても衝撃的だった。それまでの私は有名建築を見に行っては雑誌と同じように写真を撮って、綺麗に撮れたことと有名建築物を見たことに満足をしているだけだった。なんと浅はかな行動だろうか。それ以来、写真を撮るのは最後まで気になったディテールの部分のみにし、後はひたすらに「観察」をした。はじめはなんとなく見ているだけだが、時間が経つにつれ、設計者はこう考えたのではないか、この部分はなぜこうなっているのか、などが見えてくるようになった。
そして、そこで感じたことをノートに書き込んでいく。確かに、あの建築家の方が言っていた通りだ。このとき以来、しっかりと観察する、という行動が習慣化されるようになり、今の展示会デザインの業務に活かされている。
展示会ブースという仕事は、次々に発生してくるものだ。これは「学び」という点では実に好都合で、このように観察して得た「気づき」は、すぐに次のブースに反映することが可能となる。観察し、図面に記載した「気づき」は、そのまま自身のノウハウの蓄積に直結する。そして、これを繰り返すとあっという間に、デザインのレベルは上がってくる。
〇 「妄想デザイナー」にならない
展示会業界のデザイナーは現場に行かない人が多いと聞く。次から次へと発生する物件をこなすために時間の確保が難しい、ということもあるだろう。しかし、そのままでは間違いなくデザイナーではなく「現場を知らないただのオペレーター」となってしまう。
一方で、デザイン性の高さを志向する「アーティスト型デザイナー」であっても、現場を見ていなかったり、クライアントとの密なコミュニケーションを行っていなければ、単なる「独りよがりな妄想デザイナー」となることだろう。展示会業界においては、このようなデザイナーが評価されることはない。
現場を観察すると、出展者の成果に直結したデザインの在り方を知ることにつながる。そして、それを徹底的に強化していくことで、出展者にも社内の人間にも評価される「人材」へと進化していくことだろう。そのためにも、現場で「観察」することを是非行ってほしい、そして展示会業界のためにもそのような行動を推奨する職場環境であってほしい。
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