
デザイナーの「思考法」
前回は独立したデザイナーの現状についてお伝えした。ここからしばらくは、デザイナーの根本的な業務に目を向け、私が日頃感じていること、行っていることをお伝えしていこう。すべての人に当てはまるものではないかもしれないが、皆さんの行動の何らかのきっかけになってくれればと思う。
まず、前提条件として大事なことは、展示会デザイナーのデザインの目的はクライアントを成功させること、という点だ。このことから、ヒアリングを行う際、デザインを検討する際、プレゼンを行う際、打ち合わせを行う際、どの場面をとっても、「いかにして成果を出すか」という観点から検討を進めなければいけない。
〇情報収集/社員になる程までに相手の商品・サービスを理解する
デザイナーのデザインの起点はまずここだと感じている。
初回のヒアリングに伺う前には、当然だが先方のHP等を調べておく。そこでは、先方が行っている事業、歴史と沿革、社長の言葉等を事前に目を通しておく。また、地図で先方の会社の位置、全国の支店、営業所の位置も同時に確認する。会話の中で、このような話題が出ることがあるので、瞬時に反応できるようにするためだ。何気ない会話の中に、HPで見た情報が出てくることがある。その時にどんな反応を示すかは、さりげないが、顧客の信用と信頼につながる。
また、デザインに当たっては、先方の可能な限りの資料と、同じ業界の競合のページや業界の常識的な知識にも目を通しておく。このことだけで数時間を掛けることもあるが、先方の社員に近いレベルにまで知識を入れておくと、打ち合わせの際に、社員の方々の中に混じっても、対等の状況で話を進めることが可能だ。相手のことは徹底的に調べて、把握しておく。企業規模は関係ない。これは、デザイナーに限らず営業担当も必ず行うべき重要なこと、と考えている。
〇ヒアリング/自身の頭の中にプランが具体化するまで話をする
初回のヒアリングの段階で、何を聞きますか? という質問を時々デザイナーの方からされることがある。一般的には、先方の要件を聞き、不明点を尋ねておしまい、かもしれないが、私の場合は、頭の中でブースのイメージが固まるまで話をするようにしている。質問、というより何気ない会話も多い。ターゲットは何か、どんな人と出会いたいか、将来どうなりたいのか、など。先方から伝えていただく要件通りには必ずしも従わず、実際に話をして、どんなレイアウト、どんなイメージ、どんな商品の見せ方だったら成功しそうなのか。これを何気ない会話をしながら、一方で頭の中でぐるぐるとイメージをつくり上げていくような感じだ。ある程度のイメージが浮かんだら、その場で、「例えば、こんな感じはどうです?」と方向性を確認してみるようにもしている。そうして、おおよそのイメージが先方と共有出来たら打ち合わせ終了、という流れになる。
こうしておくと、初回の提案を行う段階でほぼずれがなくなる。これは業務を効率化する、という観点からもとても有効な方法だと感じている。
私は、初回のヒアリングは、基本的にオンラインにはしない。できるだけ、相手と直接会うようにしている。なぜなら、先方が要件を伝える時のしぐさや、その他の言葉、発する言葉や態度の中に本当の要望が隠れているからだ。「行間を読む」という言葉があるが、打ち合わせの場ではこれがとにかく大事で、これはオンラインでは難しい。手間と時間はかかるが、相手を成功させようとするとこれは掛けなくてはいけない手間と言える。同様に、プレゼンもそうだ。必ずリアルでプレゼンをする。たとえ、飛行機で赴くことになったとしても。オンラインとリアルは使い分けが大事だ。時間が短縮できるから全てオンラインというのは、聞こえはいいが「やっつけ仕事化」している業務だと感じる。
リアルで対面すると出展者のさまざまな状況に気が付くようになる。そこで大事なことは、相手も気が付いていない「隠れた要望」に気が付けるかどうか。これが、業務の最終的な成功と満足度、そして信頼に変わる。手間はかかるが、重要な考え方だと考えている。
〇デザイン検討/来場者心理・接客動線を軸に考える
本稿をお読みの皆さんは、どのようなデザイン手法を取っているだろうか。
クライアントから提示された要望に沿って、レイアウトを検討し、形にする。そして、プレゼンでは「こうなりました」とデザインの過程と結果を解説する。そのような方が多いかもしれない。
私の場合は少々異なる。デザイン検討時には、来場者の心理を起点にした「接客動線」を基軸に考える。成果が出るブースとするためには、ただ商品を効率よく並べるだけでは成功はしない。遠くを歩いている来場者にどう気が付いてもらい、どう引き寄せるのか。その後、どうブース内部に引き込み、商談をどこで行うのか。この一連の流れを来場者の「現実的な心理」を起点にしながら考える。この観点から、クライアントの要望に従わないことも多い。結果が出なさそうな要望には意見をし、時には設置する商品の変更も提案する。だからこそ、そのためにも商品情報や会社の事情、経営者の心理は深く知る必要がある。
出展者に展示会出展に成功していただく。そのためには、どんな時でも「成功してもらうためにはどうするべきか」を主軸において考える必要がある。そして、本来これを実現することが最終的に顧客満足を達成し、正当な報酬へとつなげることができる。しかし、時には会社の規則や慣習が、時には上司・経営層の目線が気になってしまい、デザイナーは手間を掛けずに素早く終わらせようとしてしまう。または、デザイナー自身の中で「やっつけ仕事化」して、つい楽な方へと流れてしまう。
展示会業務は多くの場合、自身との闘い、と言っていい。「成功させよう」という決意を強く持ち、持続すること。これは、決して綺麗ごとではなく、自社の利益を最大化する考え方であり、業界全体を進化させる思考だ。展示会業界の人間が持つべきマインドなのだと考えている。デザイナーの「プレゼンテーション」
〇デザイナーの「プレゼンテーション」
プレゼンがうまくなりたい。そう思っているデザイナーの人は思いのほか多いのではないだろうか。そして多くの人が緊張しない、滑舌をよくしたいなど、話し方を何とかしようと考えるのではないだろうか。もしくはいかに資料を工夫するかを考えている人もいるだろう。私はそれらを必ずしも正しくないと感じている。大事なのは「話し方」ではなく「どれだけ深く考えているか」ではないだろうか。
もちろん社会人としてふさわしくない話し方は論外だとして、滑舌の悪さや口下手は気にする必要はない。重要なのはプレゼンしようとする案件をどこまで深く細かく考えているかであり、これさえ徹底していれば資料のでき次第で緊張することもなく、滑舌の悪さも感じさせず相手を納得させられる。
実は私も口が上手いわけではない。滑舌も良くなければ早口でもある。最近はセミナーを行っているから、かなりましになってきたが、MCさんのように流ちょうに話ができるわけではない。それでも出展者に喜んでもらうことはできる。セミナーの満足度もほぼすべて「たいへん満足」という最上級のアンケート結果をいただいている。私自身のプレゼン手法はまた改めてどこかでお伝えするとして、私は日頃のプレゼンで滑舌の悪さや噛んでしまうことについて、一切気にしないようにしている。
プレゼンの上手さは、一般的には話し方や、どんな資料を準備するかといったスタンスに左右されると捉えられがちだが、実はこれらは表層的なことでしかない。大事なのは「内容」であり、どう正確に伝えるかだと感じている。
〇変化したプレゼンの形
自身のデザイン案をプレゼンする際、以前はA3サイズの図面と企画書を準備して行っていた。一冊、30枚から50枚程度になる企画書を参加する人数分準備し、プレゼン時に配布して説明する、というのが当時の一般的な手法ではあった。細かなノウハウはあるが、このような時にプレゼンに慣れた人間であれば、プレゼン日、会場において参加した人の顔触れや雰囲気を見て、企画書のどこから、どのような順番で説明を行うか、瞬時に判断をするという方法をとることができる。企画書のページ構成通りには話すことはせず、その場に合せて臨機応変な手法をとることができた。私もそのような手法を取っていたため、説明に使用する企画書は製本をせずにクリップ止めで持参する、という方法を取っていたものだ。そして、プレゼンに集中してもらうために、資料の企画書は最後に渡すようにしていた。
しかし、今ではそれも変化をしてきている。オンラインの一般化に伴い、資料は基本的にPCによるスライド資料が当たり前になってきた。オンラインにおいては、スライド資料を「共有」して説明する流れになるが、対面であっても、参加スタッフのほとんどはPCを持っており、室内に置かれた大きなモニター画面に映し出して説明を行う、というのが当たり前になっている。この変化によって何が変わるか、お気づきだろうか。このようなプレゼン手法の変化は、資料のつくり方そのものが変わってきたことを意味している。
〇A3サイズの企画書が主流の時代から、PPTによるスライドデータの時代へ
この変化による着目するべき点は、プレゼンを行う時に何をどんな順番で説明するかという「ストーリー構成」が重要になってきた、ということだ。もちろん、スライドでも紙の企画書のように臨機応変に説明の順番を変える、ということができないことはないが、やはり紙の資料の扱いに比べて違和感がある。だから、何をどんな順序で話すかを事前にシビアに決めておく必要がある。今までは、プレゼンの場でどうにかできたことを、事前の準備段階からより慎重に考える必要があり、その事前準備がプレゼンの成否を分けることになった、と言える。このことから、どんなことをどんな順番で説明をするか。プレゼンのストーリー構成をどう考えるかを今まで以上に、考える必要性が出てきた。
〇スライドのつくり方とプレゼン内容の検討
改めてデザイナーの皆さんに聞いてみたい。プレゼンの資料をどのように考え、どう作っているだろうか。我々の展示会業界では業務の特徴上、多くの場合は納期的にも規模的にも時間を掛ける余裕がない。次から次へと矢継ぎ早に発生してくる物件に対して、できることならシンプルかつ効率的にプレゼン資料を作り上げたい。
ではどのようにプレゼンを考えるべきだろうか。経験から述べる参考意見だが、まず知っておいてほしいポイントは、図面やCGができあがってからプレゼン方法を考えるべきではないという点だ。私はデザイン案を考えながら、同時にどうプレゼンするかも考えている。
デザイン案は出展者からの要望や小間位置といった諸条件に加えて、来場者心理と接客動線を掛け合わせて考える。その際、展示台の位置、高さや収納のあり方、言葉の選び方や取り付け位置など、デザインした「全ての部分」に「なぜそうなのか」という意味を問いながら検討を進める。もちろん出展に成功するためという前提条件があるのは言うまでもない。このように進めると、プレゼン時に何を聞かれても答えられるようになる。さらに考えを出展者(クライアント)にどう伝えるかを自問自答し、先方がどう反応するかを予測しながら、どんな資料があれば説得できるのかを考える。そのためデザイン案ができあがるときには、基本的にクライアントに何を聞かれても答えられる状態になっている。
その上で伝えるための体裁を整える。考えた事柄をどんな順序で話すかを吟味し、絵コンテを描いてから紙面とスライドの制作に取り掛かる。この手順を踏むとどんなタイミングでも案を説明することができる。
この手法はデザインを検討しているとき、どれだけのことを考えているかが重要になる。単にきれいでカッコいいから、こんなデザインにしたいからというだけでデザインを進めると、いざプレゼンの段階では「こんな風にデザインしました」と表層しか説明ができなくなってしまう。展示会業界のデザイナーとしては失格だし、そもそも自社の営業担当や経営層に信頼もされないだろう。
以前に本連載の中で、プロジェクトはデザイナーが中心になるべきだと話をした。プレゼンや説明する内容に深みを持たせるためには、こうした理由からもデザインを考えた本人が直接話をすることが重要だ。デザイン案を考えたデザイナーではなく、営業が話そうとすると細部の話ができず、表面的な通り一遍の話となってしまうからである。
加えて展示会におけるデザイン案のプレゼンは「どうデザインしたか」ではなく「どう成功させるか」で伝えるべきだと考えている。プレゼンの目標はクライアントから与えられた要件を満たすだけではいけない。クライアントのニーズに応え、さらに「隠れたニーズ」に応えることが大事だ。そして相手の期待を超えること。期待を超えることで選ばれるプレゼンになる。
次回はデザイナーが日常的にどう学んでいけばいいのか。能力を築いていけばいいのか。この辺りのお話をしてみたい。
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