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[コラム]商談を生む「ビジネス展」、感動を生む「エンタメ展」。空間の設計思想を考える
国内外の展示会情報を定点観測していると、人が集まる空間の設計がいかに奥深いかを痛感する。
東京ビッグサイトや幕張メッセなどの展示会場に並ぶのは、企業の製品やサービス、技術を限られたエリアで伝えるための空間、いわゆる「ビジネス展示会(ビジネス展)」である。来場者の足を止め、効率良く価値を伝え、商談や課題解決へつなげる。そのための動線設計と演出が追求される。
一方、街中のポスターやSNSでは、同じ「〇〇展」という肩書きを持ちながら、まったく違う表情のイベントを目にすることが増えた。
例えば、部屋いっぱいに映像が投影され、歩くたびに床や壁の光が反応して変化していく空間。あるいは、会場のあちこちに隠されたヒントを頼りに謎を解き進め、最後には物語のエンディングに辿り着く展示。科学技術や自然現象を全身で体感できる、子ども連れでも楽しめる遊びの場、など。
作られ方も規模もさまざまだが、これらに共通するのは、資料や作品を外から眺めるのではなく、その中に身を置き、自分自身が体験の一部になる構造だ。従来の美術展とも、遊園地のアトラクションとも少し異なる。それら「空間に入り込み、能動的に感情を動かされる体験」をビジネス展との対比も含めて、便宜上「エンタメ展」と呼んで考えてみたい。
課題解決と感動体験
ビジネス展とエンタメ展。同じ「空間づくり」であるが、重きを置くポイントには違いがある。
| ビジネス展 | エンタメ展 | |
| 主な目的 | 課題解決・商談・効率的な情報収集 | 非日常・没入・感動体験 |
| 来場者の立ち位置 | 提示された価値を見極める、評価する | 空間に入り込み、世界観を完成させる |
| 動線の考え方 | 効率的に目的へ到達できることを重視 | 巡るプロセスそのものを楽しませる |
| 演出の狙い | 機能や特徴を直感的に理解させる | 驚きや没入感を理屈抜きで体感させる |
ビジネス展の来場者が情報を持ち帰る側だとすれば、エンタメ展の来場者はその場で時間そのものを味わう側と言えそうだ。どちらが優れているかという話ではなく、来場者にどのような時間を過ごしてほしいかによって、空間づくりのアプローチが変わってくる。
そして、ビジネス展だろうが、エンタメ展だろうが、オンラインで大半の情報や娯楽が手に入る今、わざわざ現地に足を運ぶ理由が問われている。ビジネス展が「リアルでしか生まれない対話や偶然の出会い」のために空間を磨き上げているように、エンタメ展もまた「その場所に身を置かなければ味わえない感情の動き」のために空間を磨き上げているのだ。
「エンタメ展」と呼びたくなった理由
これらのイベントを指す言葉は「体験型イベント」や「没入型アート」、「企画展」など、文脈によってバラバラだ。「体験型」と言うとワークショップやアウトドアのアクティビティまで含まれて、何となくぼやける気がするし、「没入型アート」と言うと謎解きやIP展のような純粋なエンタメを指すには芸術に寄り過ぎている気がする。かといって「企画展」では従来の静かな資料展示を思い浮かべてしまう。少なくとも告知を見る立場としては、何ができるイベントなのかをひとことで掴みにくいなと感じることがある。
大まかな傾向として、いくつかの型に分けられそうではある。例えばこんな感じで。
(1)映像や光で会場全体を覆う、没入型のデジタルアート・空間演出
(2)謎解きやミッションをこなしながら会場を巡っていく、周遊・ARG型の体験
(3)五感で楽しむ、家族連れ向けの体感型アトラクション
(4)共感や気付きをテーマにした、SNSで共有したくなるコンセプト展
(5)キャラクターやIPの世界観を再現した空間
……と、いくつか並べてみたものの、同時にキリがないことにも気付く。しかも、その線引きを平気でまたいでいく体験こそ、実は一番それっぽい。型を壊すことが、エンタメの得意技だったりするからだ。
だが、それでも無理やり整理するならば、「エンタメ展」によく見られる要素は下記の3つだろうか。
A 没入性 … 外の世界と一旦切り離された世界観がつくられていること
B 能動性 … 触れる・歩く・解くといった来場者自身のアクションが求められること
C 娯楽性 … 共感・驚き・面白さなどの感情がその場で生まれること
3つが揃ったとき、そのイベントは単なる展示ではなく、空間そのものが体験として成立していると言えそうだ。
それでも、分類がどうでもよくなる瞬間
ここまで、ビジネス展=目的を果たすための空間、エンタメ展=心を満たすための空間、と分けて整理してみた(もちろん真面目に)。だが実際に会場を歩いていると、理屈より先に「スゴい」「楽しい」という気持ちが勝ってしまうときがある。没入性・能動性・娯楽性、3つ全部揃えばそれに越したことはないが、ぶっちゃけ、強烈な2つがあれば、もう十分な気もしてくる。
そう考えると、ビジネス展とエンタメ展を分けること自体も怪しくなってくる。境界線は近いうちに消えたっておかしくない。実際、ビジネス展の現場でも来場者の感情を動かし、没入感を高める演出への投資は増えているように感じるし、逆にエンタメ展の側でも、集客・収益化のための動線設計や効果測定は年々シビアになっているように見える。
数年後には「ビジネス展」「エンタメ展」と呼び分ける意味すら失っているかもしれない。だが、それはそれで構わない。望ましいまである。今のうちに、あちこちで開催されているエンタメ展に足を運び、感動し尽くしておきたい。
<文=木下 慧輔>
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