
デザイナーの「素養」
日頃、出展者の方々と接している中で、考えることがある。それは、デザイナーには持っているべき「素養」がある、ということだ。性格というべきなのか、資質というべきなのか。とにかく持っておいた方がいいと感じている。「プラス思考」と「勉強力」だ。もちろんデザイナーに限らず営業、製作担当をはじめ、展示会業界関係者全員に言えることだと思う。2つの言葉、どちらも持って生まれたものではないかと思えるかもしれない。しかし私は自ら身につけるもの、身につけることができるものだと感じている。今回はこの2つを考えてみよう。
〇プラス思考
唐突だが、この記事を読んでいる皆さんは自身のことを「プラス思考だ」と思えるだろうか。「プラス思考です」と即答できる人、「どちらかと言えばプラス思考」と答える人、中には「おそらくマイナス思考だ」と思う人もいるだろう。プラス思考とは何らかの状況が発生したときに、つい考えてしまう方向性と傾向を言う。
展示会の出展者の多くは多額の費用を掛け、出展が成功するかどうか悩んでいるものだ。出展者の商材がとても良いものである場合もあるが、中には我々の目で客観的に見ても、このままだと難しいのではないかと心配になってしまう商材と出会う場合もある。そのようなときに、これでは誰も集まって来ないと考えてしまったり、「これは難しいんじゃないですかね」とつい言ってしまったりするようではだめだ。不安そうな顔は一切見せず「大丈夫ですよ。成功します」と自信を持って言い切れること。そして言葉通り、状況をプラスに捉え直し、実際に彼らを成功に導くことができる下地のようなもの。このような「素養」が必要となる。
ではどうやったらプラス思考になれるのだろうか。私は重要な思考法として、発想の転換の習慣を身につけることだと考えている。以前の回でも説明をしたが、発想を変える習慣は想像以上に重要だ。
自分に起こる状況は、さまざまに捉えることができる。例えば、何かに失敗して落ち込んだときに、「もうだめだ」と思うのか、成功に向けて経験を1つ得たと捉え直すのか。マイナスの状況下になったときに、ただ嘆くのではなく「こうなってしまったことは仕方がない。だったら、この状況を最大限に利用するためには何ができるか」を考えるのだ。このように思考する習慣を持てれば自然に、そして常にその場の最大限の活用方法が思い浮かぶようになる。
プラス思考はなろうと考えてなるものではなく、思考の習慣を持つことで自然に変わっていくものなのではないか。逆に「どうせ自分は」や「どうせそれは」といった言葉や、相手をすぐに批判してしまうネガティブな習慣は、発する度に自身をマイナスな方向へ落としていく。
だから、このような言葉は人生で二度と口にしないと自身で決意することもいい。自身の人生を楽しくするためにも是非取り入れたい習慣だ。
プラス思考には、誰でもなることができる。時間はかかるが発想の転換を行う習慣を身につけ、自身の中で、言うべき言葉、言わない言葉を決めると、いつの間にか自分が前向きになっていることに気が付くときが来るだろう。不安な思いをしている展示会出展者に対して、自信を持って安心させられるように「プラス思考」の習慣は持っておきたいものだ。
〇勉強力
デザイナーが持つべき能力のうち、もう1つは「勉強力」だ。これは頭がいい、悪いという類のものではない。そうではなく「分からないものを分かるようにするために動ける力」と置き換えてもいいかもしれない。社会人として仕事をしていると、日々分からないことに遭遇する。
特に展示会のクライアント(出展者)の職種はさまざまで、食品、化粧品、半導体、 IT系など業種は多岐にわたる。さまざまなクライアントの商材に出会ったときに、全ての商材を自分にとって分からないものとして対応するか、毎回出展者の商品を調べ上げ、先方の社員に近い知識を身につけて対応するかでは、相手からの自身に対する信頼度が圧倒的に変わる。
また理解してデザインを進めると、ちょっとしたときの判断に大いに役立つ。出展者を成功に導くべき展示会デザイナーは当然後者であるべきだ。
この勉強力を持つために大切なことは何だろうか。それはシンプルに好奇心だ。知らないことを知りたい、と思えること。知らない知識を得ることの楽しさを分かっていることが大切だ。知らないことを知ろうとする好奇心。そして、それを行うための実行力。これらをまとめて「勉強力」と私は考えている。
展示会業界の関係者にとって、この2つの能力はとても重要なものだと感じている。逆に言えば新入社員であっても、我々の業界が未経験であっても、この2つのことに自信があれば胸を張って「強みです」と言ってもいいのではないだろうか。
〇「理解するシステム」を持っておく
さらに、もう1点。展示会デザイナーに限らず、新人の方や若手の方に是非お伝えしたい考え方がある。学生時代には学校においてさまざまな知識を教えてくれたため、それを学んでいればよかった。だが、会社は学校ではないので、基本的に教えてくれることはない。必要なことは自身で学ばなければいけない。
しかしながら、社会人になると、日々「未知のこと」「分からないこと」が波のように押し寄せてくる。これに対処することはなかなか難しく、すぐに頭の中がいっぱいになってしまう。そして上司からは「なぜ知らない」という目で見られる。なかなか社会人はシビアな環境だ。
そこでお勧めしたいのは、「分からないものを、分かるようにする方法」を自身の中で構築しておく、ということだ。まったく分からないこと・状況が出てきたその時に「どのように動くか」を自分の中で定型化しておくと何がきても慌てることはなくなる。
例えば、これは建築設計の分野の仕事になるが、上司に「来週確認申請を出すから申請書を作っておいて」と頼まれたとする。確認申請とはなんなのか、訳が分からないことだろう。でもやらなければいけない。では、どう動くか。全く訳が分からないので上司に聞こうとしても、上司も自身の業務を持つ身。教えてもらうような時間を割いてもらうのは申し訳がない。
実はこの経験は私がゼネコンに勤めていた時の経験だ。当時はまったく分からず右往左往したものだが、今だったらもっとマシに動けるように思う。
未知のことが出てきたとき、まず大切なことは「情報収集」だ。訳が分からず焦るのは、知識がないから、というのが大部分だ。なので、まずは自身で調べる。「確認申請とは何なのか」、そして自社で過去に提出したものを探し出して現物を見る。
さらに今ならAIに聞けばさまざまなことを教えてくれるだろう。このような「関係する情報をまずは自身で調べ出す」ことが大事だ。
そして次にするべきことは、それらの理解と解読となる。とにかく資料に目を通して頭の中で、確認申請とはどんなものかを構築する。そうするとある程度理解はできるが、どうしても不明点が出てくる。その段階になって初めて上司に質問をするといい。概ねこのような流れだ。大抵のものは、この「情報収集」→「解読・理解」→「社内での質問」で解決をする。
上司も、部下が何一つ調べてもいない段階で「分からないから教えてください」と来られても「ムッ」とするだけだ。しかし、「ここまで調べてみたのですが、ここが分からなくて」と言えば、いろいろと教えてくれることだろう。
シンプルなことだが、この話は会社の上層部の皆様には強く共感してもらえることではないだろうか。多くの上司が部下に伝えている話だ。ここでの解決方法は一例だが、是非自分なりの「分からないものを分かるようにするシステム」を構築してみてほしい。
◯デザイナーの日常
デザイナーの個人領域に足を踏み込み、日常について話してみよう。
若手デザイナーの方から「日頃どんなものを見ていますか」と聞かれることがある。デザインを考える際に何をインスピレーションにしているのか、という質問だ。
これはあくまでも私の場合なのでデザイナー全てに当てはまることではないだろうが、仕事に関連して日常的に意識しているのは、さまざまな店舗を見ることだ。
そもそも個人的にもセンスの良さそうな店舗やカフェ、雑貨類が好きなため、新しい商業施設ができれば見に行くようにするし、地方都市でも「ただものではない」感を持つ店舗は事前に調べて行ってみるようにしている。有名店、有名ブランドだから見に行く、というよりも、例えば地方都市の郊外で1店舗しかないぽつんとした店舗でも、何かを感じたら手間でも行ってみる。
このような時に「見ているポイント」は、店舗デザインだけでなく、どんな商品が置かれているのか、そして、それらがどう陳列されているのか、などだ。特に陳列については、展示会ブース計画時のアドバイスにとても役立つので、単に見るだけでなく、「陳列商品を手に取って見た後は、見る前よりもきれいに置き直す」というルールを日常的に自分に課している。
これらの行動のおかげで、例えば雑貨・商品系の展示会では、出展者よりもお店情報や商品情報を詳しく知っていたり、産業系の出展者の方へ陳列のアドバイスを行うことができている。
以前このようなことがあった。出展者の方から、ある店舗の写真を見せられ、「このようなイメージでお願いしたいのですが」と言われた。写真を見ると、それは中目黒にある雑貨店だったため、「これは中目黒のあの店ですよね。よく行きますよ」とお伝えすると、「よくこの写真だけで分かりますね!」とびっくりされた。一般の方にはその写真だけでは分からないだろうが、雑貨好きであればよく知っている店舗の姿だ。このことにより、「この店をご存じであれば安心です!」と信頼関係を築けることとなった。
自分の趣味が仕事に役立つのはとてもいいことだ。以前に、自分の「好き」を自分の得意分野に、といった話をしたが、このように、日頃好きで動いていることを業務に役立てることができるようになると仕事がさらに楽しくなることだろう。読者の皆さんも、日頃の自分の趣味や嗜好などを役立てることができないか、活用できることはないか、是非改めて考えてみてほしい。
〇外の世界とつながる/人脈をつくる
もう1つ、主に会社勤めをしている皆さんにお勧めしたいことがある。それは、社外での人脈を積極的につくることだ。社外を「個人」と置き換えてもいい。独立をして、フリーランスになったり、自身で会社を経営するようになると、日頃、周囲にどれだけ人脈を持っているかが仕事の受注だけでなく、業務の質をも左右することになる。だから、当たり前のように人脈を広げることに積極的になる。
例えば、設営会社や運営会社とどれだけ知り合いか。グラフィックデザイナーの方とどれだけつながっているか。ここまでは日頃皆さんの業務でも知り合っていることだろう。それだけでなく、「士業」の方と知り合っていたり、全く違う業種の人と知り合っていたり。これらは、常に仕事と関係するわけではない。しかし、知り合いであれば、何かの時に相談することができる。
ビジネスも、そして人生も「人脈」で成り立っている。これは、私も独立前、組織の中にいた時にはなかった感覚だ。会社勤めをしていた頃は、社内だけの人のつながりだった。お客様はお客様でしかなく、その他は「業者」と呼ぶ協力会社が、仕事の関係性の中だけでなんとなくつながっていた。今思えばとても狭い世界にいたものだ。会社は大きかったのに、自分がいる世界はとても狭い。そのような環境だった。
一方で、独立すると、会社は小さくなるが「世界」は圧倒的に広く、大きくなる。以前「独立は簡単にするものではない」とお伝えしたが、このような個人的な「社外の人脈」は、たとえ勤めている人であっても積極的に持つべきだ。
自身が構築した個人的な人脈が、今の皆さんの業務に何らかの役に立つようであれば、それはとても良いことなのではないだろうか。また何かの時に力になるのは、やはり個人的に構築してきた「自分の人脈」なのだ。
現在、私と知り合いの会社数社で、展示会業界の交流会を年に3回行っているが、これはこのような思いで、企業勤めの皆さんにもさまざまな人脈、横のつながりを持ってほしい、という思いで開催している。
ちなみに、私の場合、人脈を広げ、構築する方法として「Facebook」を活用している。私の周りの独立している人はほとんどやっており、普段のやりとりには「メッセンジャー」を活用している。これは独立している人の中では当たり前の動きだ。「Linkedinはどうですか?」という意見もあるが、これはあくまでも個人的な感想だが、Linkedinは、求人色が強いため、企業勤めの方にはよいかもしれないが、シンプルに人脈を広げるという観点からは、Facebookがとても役立つ、と感じている。
以前にもお伝えしたが、日本人の民族性について、さまざまな日本人論において「集団主義」と表現されている。日本人、そして日本の組織は多くの場面で「集団の規則に従う」「前例に倣う」などといったことが重視され、昨今ではそれが国際的な競争力を下げ、企業の成長を妨げる大きな原因になっている、とも言われる。また、個々にとっても、このことが足かせのような不自由さを感じる人もいることだろう。
日本はこの先、長期的に見て間違いなく「個」の時代へと変質をしていく。そのような世界では、それぞれが会社のルールや集団の論理・慣習に従うだけでなく、「自分」というものを自身の意思で作り上げていくことが求められていくのではないだろうか。
集団の中の一員、なだけでなく、積極的に「個」の在り方を考え、自身の力と自身の考えで動けること。「会社の看板」で仕事をするのではなく、「自分という看板」で仕事をする時代。個の力を持つ、そんな「素養」がこれからは求められているのではないだろうか。
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