展示会業界では長年、人材の定着や育成が課題とされてきた。中でも、空間づくりの核を担うデザイナーが力を発揮できる環境をどのように築くかは、業界全体の持続的な発展にも関わるテーマといえる。今回、展示会業界で活躍する4名のデザイナーを迎え、座談会を実施した。働きがいやマネジメントを切り口に、これからの組織のあり方について語ってもらった。

水野 智仁 氏

小杉 将史 氏

坂本 真有子 氏

竹村 尚久 氏
それぞれのキャリアとデザイナー観
――皆さんは業界内でお互いの会社についてはご存知かと思いますが、改めて現在の立場やこれまでのキャリアについて、簡単に自己紹介をお願いします
業界未経験で面接を受けたのですが、私のやりたいこと、目指したいことを親身に聞いていただき、デザイナーとしてクリエイティブ部に配属されました。そのとき、自分のやりたいことを後押ししてくれる、チャンスをくれる会社だと思い感動し、そこからデザイナーとしてこだわりを持って活動してきました。
そのような経緯もあり、私はチャンスを活かしたいと考えたり、人一倍デザイナーとは?と考えることが多いです。「他よりもいいデザインを作りたい」「こだわりたい」「デザインでお客様に認められたい」という強い思いがあります。
今では、数回の受賞歴もありチャンスを掴みとってきました。昨年まではスペースデザイン部門の責任者でしたが、今期からはプランニング部門の責任者になり、現在は企画・空間デザイン・運営とトータルで関わっており、ディレクションをメインに活動しています。
私は新卒でフジヤの大阪支社(現関西支社)に入社しました。大学では建築を学んでおり当時はギャラリーなどの展覧会やウィンドウディスプレイに興味を持っていました。
そこから、さらに幅広い空間デザインを経験したいと考えフジヤに入社し、展示会についてはゼロから現場で学びました。
大阪時代、東京ビッグサイトには大きな案件で年に一度行けるかどうかという環境で11年ほど過ごし、その後結婚を機に東京へ。現在はブースデザインをメインとし、管理する立場というよりデザイナーとしての比重を高めています。ただ、キャリアを重ねるにつれてディレクションの仕事も増えていますし、若手デザイナーに対しても、上司・部下というよりもっとフラットな関係でデザインの楽しさを伝えていく立場だと感じています。
私は新卒でゼネコンの設計部に入社しました。ただ、ゼネコンの設計は意外と機械的な作業が多く、「人と仕事ができない」感覚にギャップを感じて早期に辞めてしまったんです。次に何をしようかと考えたとき、学生時代に文化祭実行委員長を担った経験から文化祭のようなワクワク感を仕事にしたいと思い、イベント・展示会業界の門を叩いてトーガシに入社しました。
最初はデザイン部門に4年、その後、営業も経験したいと希望して “デザインができる営業” として3年。計7年勤めた後に一度退職し、ファッション業界をメインとした広告代理店で数年、営業テクニックや外部ブレーンとの連携を学びました。外から改めてトーガシを見て思うところもあり、ご縁のもと出戻り。
マーケティング部門を立ち上げてブランディングに4年従事した後、現在は東日本デザイン部で、計25名程のクリエイティブ組織の責任者をしています。新入社員も毎年4~5人入ります。組織が若返りをしている中で、私も年齢的に上のほうになります。趣味嗜好にはジェネレーションギャップはあるかもしれないけど、それを感じさせないよう心掛けています。クリエイティブの考え方では共感できることも多く、年齢の差なんて関係ないのかなと。
私は大学で建築を学び、ゼネコンに就職して最初は阪神淡路大震災直後の神戸で2年間、現場監督をしていました。やはり設計がしたくて、社内営業を必死に頑張って東京の設計部に転属。そこで企画コンペのためにA3で50枚もの資料を作り続けるような日々を8年ほど送りました。
転機は病気での入院です。人生を見つめ直したとき、ゼネコンの構造の中で、設計者が営業や現場の下に置かれ、クライアントと直接話すこともできず、タイルの色さえ選ばせてもらえない。そんな環境に疑問を感じたんです。「これはクリエイティブと呼べるのか?」と。
復帰後は社外に目を向けて、インテリアプランナー協会などで仲間ができたことで視界が広がりました。その後独立し、紆余曲折を経て展示会の仕事に出会いました。出展者の方から「小さなブースのデザインに真剣に向き合ってもらえない」という相談を受けたことをきっかけに、建築やインテリアをすべて捨てて展示会ブースデザイン特化に切り替え、現在に至ります。
独立した当時は、月末の支払いができない恐怖を味わいました。いろいろなところでお金を借りるような日々もありました。でも展示会に特化したら徐々に仕事が回るようになって。ただ、はじめのうちは見積もりを作るのがどうしても苦手で、案件が終わった後、手元に5万円しか残らない……なんてこともありました。皆さんはその辺の「数字」についてはどう考えていますか?
デザインの価値をどう定量化するか
当社の場合は、会社として一律のパーセンテージでデザイン費が決まっています。とはいえ案件による部分もあるため、例えばコンペの失注分などを加味すると採算が合わないという現場の声から率が引き上げられた経緯もあります。
かつては個別に計算していた時期もありましたが、クリエイティブよりもお金の計算に頭を使ってしまい、本来の業務が滞るという課題も見えました。今は会社全体で数字を管理しながら、案件ごとに社内で調整しています。個人の力量は時給ではなく、上司が日々の働きを見て評価します。
坂本さんの話もよく分かります。デザイン費はとても難しいですね。社員には、デザインのクオリティを高め、継続的に案件の依頼をいただける状態を目指すことが重要だと伝えています。指名されるデザイナーになることが、結果として価値の向上につながると考えています。
若手デザイナーを見ていると、価値の捉え方に悩むケースが多いと感じます。作業スピードの違いはあっても「どこに価値を置くか」を考える習慣がまだ十分ではない場面もあります。
つまり自分の価値を自分で決め、それをお客様に認めていただくという考え方です。大切なのは、会社の枠組みやチームの力も活かしながら、自分自身の価値をどう定義するかを考え続けることです。さらに一歩踏み込むと、その価値を高めるために、自分は何をすべきかまで考え、行動していくこと。デザインの価値は与えられるものではなく、自ら定義し、積み上げていくものだと考えています。
当社は「工数」をベースにしています。ただ、同じ1000万円の案件でもジャンルによって難易度が違うので、実工数と照らし合わせる難しさはありますね。同業他社では役職やクラスによって、本当の時給設定(例えば、新人3000円、一流1万円など)を変えているところもあると聞きますが、それも一つの正解かもしれません。
悩ましいのは優秀で仕事が早い人ほど、工数計算だとデザイン費が安くなってしまう矛盾です。去年10時間かかっていたものを、別の人が5時間で終わらせた場合、それをどう評価に還元するか。逆に工数が増えてしまったときはどうするのか。
当社は規模が小さいこともあり、能力給の段階制にしています。年齢給も少しはありますが、基本はブロンズ、シルバー、ゴールドのような3段階。新人はブロンズからスタートし、自分のスキルをアピールして「これだけできるから上げてほしい」と言える文化にしています。
クオリティとは「ありがとう」の数だと考えています。デザイン性だけでなく、あらゆる面で「ありがとう」と言われる仕事をいくつ積み上げられるか。その積み重ねが結果としてデザインの質を高め、指名や信頼につながっていく。そうした考え方を若手にも伝えています。
技術よりも大切な考え方
――人材採用の視点で考える上でポイントはありますか
小さな組織の場合、スタッフ一人の能力や性格が会社全体にダイレクトに響きます。私が組織作りで最も大事にしているのは「学ぶ力」と「前向きさ」です。
分からないことをそのままにするのではなく、自分で調べたり、取り組める学習能力があるかどうか。極端な話、イラストレーターが使えなくても、展示会の知識がなくても構いません。勉強する能力さえあれば技術は後からついてきます。仲の良い経営者仲間も、みんな口を揃えて「スキルより人柄」だと言いますね。
全く同感です。私も採用面接では、最後の時間を学生からの質問に充てています。その中で、どれだけ主体的にコミュニケーションを取れるか、本気で当社に関心を持っているかを見ています。技術は入社後に伸ばすことができますが、コミュニケーションや学ぶ姿勢は重要な資質だと考えています。
最後に「質問はありますか?」と聞いて「ないです」と言われると、興味がないのかなと寂しくなりますよね。ここは何かしら質問した方が印象が良くなるのでは、と先回りして、そこまで考えてもらいたいところではありますね。
私も面接に同席することがありますが、なかなか突っ込んだ逆質問をしてくる方は少ない印象です。
どうしても面接の場は硬くなってしまいがちですから、話しやすい環境を造るように意識しています。
デザイナー育成と評価の難しさ
――育成面も重要です
当社はここ数年、全国の拠点をつないでプロジェクトを動かす体制をより強化しています。例えば東京の営業が大阪の現場を担当する場合、大阪のデザイナーと組む。そうすることで全国のノウハウを共有することがねらいです。育成面では、先輩と後輩が1年間ずっとペアで動く「ニコイチ」のような形が理想ですが、案件ごとに担当が変わる中でどう成長を支えるか。無事に案件が終わったという結果だけでなく、プロセスをどう評価につなげるかは悩みどころですね。
その「先輩に付く」というのも、先輩のやり方に依存してしまうリスクがありますよね。かといってローテーションだって中途半端に終わってしまうこともあります。
当社のクリエイティブ部門のOJTは、2年目社員が1年目のサポートを担う形を取りつつ、実務はチームで動き、チーム長が全体を統括する体制にしています。相談しやすい関係性と責任ある指導の両方を分けて設計することで、若手が一人で抱え込まない環境づくりを意識しています。
当社も水野さんのところと同じで、基本的に2年目が1年目の面倒を見るようにしています。一番リアルタイムで悩みを理解できるのは1年上の先輩ですから。
評価基準としては「デザイン力(受注金額や案件規模)」と「人間力(コミュニケーション)」の二軸です。ただ、それだけではこぼれ落ちてしまう「デザインの質」をいかに評価してあげるかが今後の課題です。
デザインの評価は主観が入りやすいので本当に難しいです。その中で当社では、どれだけ主体的に考え、案件に向き合えるかという点を重視して人選を行っています。
そうですね。だからこそ、メンバー各々の好きや得意を把握して、クライアントに合った人選をすることが重要だと思っています。「このジャンルが好き」「あの案件やってみたい」という声を拾い上げ、適材適所で案件を振る。それが結果としてクオリティ向上につながると信じています。
「好き」が一番の原動力ですよね。最高の勝ちパターンだと思います。私も社員には「やりたいことはどんどん口に出せ」と言っています。言わないと伝わらないし、好きなことを公言していればチャンスは巡ってくる。もちろんそれだけで評価が決まるわけではありませんが、本人の意欲を引き出す仕掛け作りは組織として続けていきたいですね。
皆さんみたいな人が上司だと良いんでしょうが、どうしても人に依存してしまうことにもなりますから、そういった思いを組織として仕組み化できれば面白いですよね。
掲載:『見本市展示会通信』4/15号・春季特集号

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