
デザイナーと「営業」の関係
まずは「営業担当」と「デザイナー」の関係についてお伝えしてみよう。多くの場合、クライアントの窓口になるのは営業担当(以下営業と表記)だ。日頃の営業活動の成果として出展者と接触し、要件を聞き出し、デザイナーへ伝える。デザイナーは営業が預かってきた予算の中でブースをデザインし、クライアントの要望を満たしつつ、粗利を出すデザインを考えねばならない。
営業はデザイナーと設営担当と話し合って見積書を作成し、どこをどうすれば一定の粗利を確保した提案になるのかに頭を捻ることになる。このような状況下で考案したデザイン案は、クライアント目線ではなく、社内の利益目線で修正されるパターンが多い。修正による影響が社内だけならよいが、大抵はクライアントの出展成果を見据えていない場合が多く、修正によって質が低く成果の出ないブースの完成につながってしまう。
その一方で営業にしてみれば社内に対し「〇〇%の粗利を確保しました」と報告できるため、ある意味担当者は安心する。しかし現実的には今後、このクライアントからは二度と仕事の依頼が来ない……と、同じような状況に陥った経験がある組織は少なからずあるかもしれない。
デザイナーからすれば、制約の多すぎる条件の中で満足のいくデザインができずに不満がある場合もあるだろう。一方で営業からすれば、利益の幅を圧迫するようなデザインしかしないデザイナーに対して不満を持つかもしれない。このような営業とデザイナーの関係は、どこの組織にでもありがちな課題だ。
話は変わって、実は私は当社スーパーペンギンの営業担当でもある。・・と言うと驚かれる方もいるのではないだろうか。
実際、これまでさまざまな営業を行ってきた。飛び込み営業、DMを送ってみること、交流会に参加したり、自ら企画したり。お客さんと飲みに行く、など。さまざまなことをこれまで行ってきている。それは当然のことで、小さな会社の人間にとって、営業担当という人は存在しないため、自身で行うしかないからだ。だからこそ、仕事を取るまでにどのくらい苦労をするか。
その業務の背景にどのくらいの「裏の努力」があるのかが理解できる。しかし、多くの「営業をしない」デザイナーはこのような隠れた努力を理解することはなかなか難しいことだろう。
ではデザイナーは営業に対してどのようにあるべきなのだろうか。また逆に営業はデザイナーを交えたチームの中でどのような役割を持つべきなのだろうか。
〇営業担当の役割
まず営業の役割を考えてみよう。私は優秀な営業の条件は「少しでも高い予算額を獲得してこられること」だと感じている。「少しでも高い粗利を獲得できること」ではないのがポイントだ。
例えばクライアントからの予算額の提示が100万円であったとしても、その倍200万の予算に増額してもらう。その手腕だ。「それは無理だ」とほとんどの営業の方は考えるかもしれない。ただ、その前にどうしたら倍の予算に上げてもらえるか、一度真剣に考えてみてほしい。何をどうすればそれが実現できるのだろうか。ひょっとすると自分だけの力では無理かもしれない。
それならばデザイナーや設営担当と一緒に考えればどうだろうか。または会社全体で経営者も交えて話を行い、会社自体の体制を変えればどうだろうか。自分だけの範疇で考えず、社内全体まで視野を広げると、達成できる方策は見えてくるはずだ。
では、具体的にどんな方法であれば、クライアントは予算額を上げてくれるのであろうか。それは、シンプルにビジネス的に考えれば分かる。つまり「投資する価値があるかどうか」だ。増額することによって、支払った費用以上の対価が得られるのであれば、増額する価値は十分にある。では、展示会出展において、その価値とは何だろうか。端的に考えれば、増額することによって、数倍の受注増が見込めること、より質の高い出展者との出会いの可能性が高まることなどが挙げられるだろう。
このような施策をデザイナーや、営業が、そして会社全体として提案できるようになっていれば、応じてくれる可能性は高くなる。
〇最強の利益を獲得できるチームとは?
本連載で何度もお伝えしているが、展示会業務は出展者の成功を最優先に考えることが重要だ。会社として成功させる力を持ち、実際に出展者を出展成功に導く。これができれば次回の依頼へつながり、自信を持って見積書を提示できる。
しかし成功を目指し、最優先に考え、成功させるのは簡単ではない。デザイナーは時に自社の利益を削るような提案をする場合もあるだろう。自身の残業時間を増やしてしまうかもしれない。こうしたデザイナーの行動に対して営業がすべきなのは、自社の利益(粗利)を下げるデザイナーの言動を責めることではない。全力でクライアントに寄り添いデザインを進めるデザイナーをしっかりと見据え、クライアントに対して「これだけの仕事をしているのだから」と、増額の申し入れをすることだ。
もちろん、それらは「クライアントを確実に成功させる」ことが目標になっていることが絶対条件だ。出展者は、常にどのようにすれば成功できるかを日々悩んでいるものだ。どのくらい予算を上げれば、成功の確率が高まるのか。そのことを真摯に話し合えば増額の可能性も出てくる。
そのような考えを持つ出展者は多いし、実際にその上で劇的に出展に成功させることができた時には、心から喜んでいただける姿を見ることができる。
デザイナーは基本的に出展者側に立つべきだ。共に成功を目指す大事なパートナーとなること。一方で営業は、デザイナーの作業に見合った報酬をクライアントに伝えるべきだ。これまでの経験上、デザイナー自身はお金の話をするべきではないと感じている。デザイナーはあくまでも出展者側に立ち、惜しみなく成功に向けたアドバイスをする。
営業はそれに見合った費用の話をする。こうしたデザイナーと営業のタッグが最強の結果をもたらす。
となると、デザイナーはどうあるべきだろうか。少なくとも営業が誇れないようではいけない。クライアントに対し、「うちのデザイナーは他とは違いますよ」と言えることが大事だ。チーム体制を構築できれば、出展者と対等に話ができる組織、出展者を成功へと導いていける組織ができあがる。
◯デザイナーと「製作」の関係
展示会ブースを実際に「製作」する担当とデザイナーの関係についてお話ししていきたい。
「……デザイナーの連中はまるで分っていない」。この言葉は展示会に限らず空間デザインの業界において、製作側の担当者から度々聞かれる言葉だ。製作の手間をまるで考慮していないディテール(詳細。細かな部分の作り込みのこと)。ディテールを知らず詳細丸投げの図面。
一見考えているようで「作業工具が入らないから施工できない」図面。要は現場を知らないデザイナーに対してモノ申したい製作担当は数多くいらっしゃるのではないだろうか。
一方で「デザイナーは現場のことを知るべきではない」と、建築家・インテリアデザイナーの世界では言われることがある。これは特にアーティスティックな設計をする建築家がよく言うセリフだ。なまじ現場を知ってしまうとデザインの発想が縛られてしまい、よいデザインが出なくなる、という意味だ。ひょっとすると展示会業界でもこのように話しているデザイナーの方はいるかもしれない。
デザイナーがこのようなセリフを言いたいことはよく分かる。しかし、私は展示会の世界においては、デザイナーはこのように考えるべきではない、と考えている。これまで何度もお伝えしてきた通り、展示会ブースにおいては「結果」が大事なのであり、商談を目的とする展示会ブースにおいてアート性は少なくていい。というのが私の考えだからだ。
もちろん、展示会ブースにおいてもデザインは大事だ。ただ、それは出展企業の印象を高めるため、企業イメージをよりよく見せる、という観点からのデザインを意味している。僅かな時間で設営しなければいけない展示会では、効率的に製作することが求められ、さらに少しでも利益を高くするために、製作コストが掛からない仕様が求められる。
このような状況の中で、デザイナーは、そして製作側はどのようなスタンスで日頃業務を進めていけばよいのだろうか。
〇今の「製作側の論理」は出展者満足度を高くできるのか
製作担当者の方の中には「デザインなんて」と否定的な意見を持たれている方も多いかもしれない。しかし、展示会においてもデザインはとても重要だ。ブースの第一印象はその出展者の会社としての信頼度や企業イメージを左右する重要な指標であることを考えると、決して軽視してはいけない視点であることは誰もが理解していただけるものだろう。
以前も述べたが、要は「デザイン」の解釈の問題なのだ。デザインをアーティスティックな芸術のように考えるのではなく「企業の第一印象を決定づける重要な要素」と考えれば、決して否定はできないだろう。展示会では、後者のような「印象」としてのデザインが重要となる。
これはあくまでも私の主観ではあるが、今の展示会業界は、あまりにも「製作側の論理」だけで作られているブースが多い、と感じている。ここで言う「製作側の論理」とは、製作担当者にとって都合がいい作り方やディテールのことを言う。例えば、収納の形や倉庫の扉など。現在の展示会業界には、業界全体の慣習として「ブースとはこうあるべきだ」という一定の共通した製作方法が広がっている。
これが、最強の企業イメージを作り出すために徹底的に考案された結果のものであればいうことはない。しかし、ほとんどの場合、出展企業の結果を見据えたものではなく、シンプルに「作りやすいから」「使いまわしできるから」「コストが安くなるから」などといった「自分目線の結果」として成立した製作手法となっている。
つまり、作りやすさやコストを重視するあまりに「ブースの印象づくりの視点」や「出展者の成功を目指す意識」が後回しにされている、そんなブースがあまりにも多いのだ。
これには、2つの要因が関係していると思われる。1つには、製作担当が「来場者によい印象を与えるデザインとは何か」、その基準を明確に理解できていないこと。そして、製作担当者自身が、出展者と交流することが少なく、これまでの慣習と自身の思い込みの中だけで業務を行ってしまっていることに起因している可能性が高い。
本来、このような視点を補い、是正するのがデザイナーの役割であるはずだが、そうなっておらず「製作側の論理」が優先されているのは、展示会業界においてデザイナーの「力」「立ち位置」、そして「権限」がとても弱い、ということを表している。
〇デザイナーと製作側の「見据えるべき先」とは?
このような状況下において、デザイナーはどのような役割を持つべきだろうか。それは、自身のアーティスティックな気持ちを満足させることではなく「出展者を出展成功させるためのブースイメージ」を明確に作り上げ、その意図を製作側にしっかりと伝えることだろう。もちろん、その際に描く図面には、当然「製作」を十分理解したものであることが必要だ。
ただし、製作側の指示や意見に従ってばかりでは、最終的に「出展者を失敗させること」につながってしまう可能性もあるため、注意が必要だ。「製作担当が作りやすい」デザインにしたために「印象が悪い」ブースになってしまうことは往々にしてあることだ。デザイナーが見据えるべきは、出展者の成功であり、そのためにブースのデザインはどうあるべきかを徹底的に考える。
そして、たとえ製作側にとって「面倒な」仕様であっても、意図をしっかりと説明し、押し通す力、つまり説得力を持つことが重要だ。
展示会ブースの業務において最も重要なことは、出展者を成功させることだ。そのためには、製作担当であっても、出展者の「出展成功」や「顧客満足」はしっかりと考えなければいけない。デザイナーが考えるデザインの意図を明確に理解し、製作という専門的な立場から最適な意見を伝える。そうすることで、出展者を成功に導き、更には自社の粗利を確保できる「最良のブース」が出来上がることだろう。
それぞれが別の方向を見て業務を行うのではなく、「出展者の成功」という最強の目標を共有して行動をする。デザイナー、営業、そして製作、それぞれが同じ目標をしっかり認識し、動ける組織であることが大切だ。そして、そのためにはデザイナーはその中心人物としての役割を期待されることになる。
〇自社独自の「仕様」を作り上げる
ここで、私が提案したいのがそれぞれの会社で、「出展者の印象を高めることができるディテール」を標準仕様として定め、それを常に用いることを会社としてのルールにする、というものだ。
実際、当社では収納の形状、倉庫の扉、タペストリーの吊り方など、当社独自の仕様を決めており、依頼している設営会社の方々には、常にその仕様で製作をするようお願いをしている。おそらく、これまでの慣習的な作り方に慣れた製作担当からすれば「面倒くさい」仕様として映ることだろう。しかし、この仕様を毎回必ず踏襲することで、今ではどの設営会社の方々も慣れて当たり前のようになってしまっている。
また、彼らは当社が常に出展者の成功を最優先に考えていることを理解してくれている。そして、何も言わなくても最高の作りを目指してくれている。私が現場に行くと、今回のブースではどのような工夫をしたのか、嬉々として自慢をしに来てくれるぐらいだ。
しかし、そうであるのは、当社のスタッフ達が、会場では必ず設営作業をしてくれている作業員の方々に声を掛け、名前で呼び、そして彼らを出展者に必ず紹介してくれているからだろう。社員・外注の分け目がなく、全員が「仲間」としてブースづくりに当たる。このことは出展者に成功してもらうためには大事な要素なのだと感じている。
当社が依頼している設営会社は「他社がデザインしたブースをつくると何だか物足りない」という。
常に難しい仕様をお願いしているからではない。当社が常に出展者が成功するために動いていることを知ってくれており、そして、実際に会場で喜んでいる姿を見て、それを出展者、当社、設営会社で共有しているからだ。
成功に結び付く仕様、お客様が喜んでくれる仕様をしており、それを肌で感じているため、それを見据えていないブースデザインの設営をすることが「物足りない」と感じるのではないかと思う。
デザイナー、設営、そして営業が一緒になって成功を目指したブースづくりを行う。このように聞くと綺麗事のように思えるかもしれない。しかし、出展者のためだけでなく、お互いのモチベーションを高め、やる気を出すためには必要な体制なのではないかと、日々感じている。
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