[連載]展示会デザイナーはどうあるべきか。#12|SUPER PENGUIN・竹村 尚久

本記事は、展示会業界専門紙「見本市展示会通信」に掲載された連載をもとに、WEB掲載用に再構成したものです。

デザイナーと「経営」

今回は、デザイナーと経営の関係について、話をしてみたい。

まずは経営者について。

「経営者は何をしているか分からない」とは、会社内でよく話される言葉だ。「夕方になると飲みに行ってしまう」「気が向いたときに現れる」「いつも誰かと話してばかりいる」と言ったように。ここでは、そんな経営者に対してありがちな「2つの思い込み」について話をしてみよう。

〇社長は何をしているのか分からない

まず、1つ目は「社長は何をしているか分からない」というものだ。多くの人にとって、なんとなく「社長ってこうなんだろうな」というイメージはあることだろう。「さまざまな物事を決めている人」「部下に指示をしている人」、など。では、実際にはどうだろうか。小なりとは言え、同じ経営者の私としては「一般的な社員の方が想像しているよりはるかに、少なくとも10倍は多く、さまざまなことを考えている」と、言いたい。

どんな規模の会社の社長であっても、従業員全員の生活を背負っている。これは想像以上に重い。自分の判断1つで、会社、そして社員の行く末が変わってしまうとなると、考えるべきことは多岐に渡る。10年後にはどうしているのか。20年後はどうか。そのために、今手を打っていなければいけないことはなにか。そんな「未来目線」と、現在進んでいる業務の状況の把握、組織のあり方、従業員の状況など、挙げていけばきりがない。

一般的な社員(従業員)は、会社の中で「一部分の担当」として雇われているため、その決められた部分のみを考えていれば「やってはいける」。しかし、社長は「知らない」というわけにはいかない。基本的に現在と未来(もちろん過去も)について、会社の全てを把握しておくことが要求される。これだけでも、社長の頭の中は、自身の頭の中よりもはるかに多くのことを考えていることが想像できることだろう。

想像してほしい。もし仮に自分が300人の部下を雇い入れたとする。その人々に毎日業務が円滑に進むように指示を出し続ける。そして、その結果として毎月給料を払い続ける。これらのことを皆さんはできるだろうか。また、雇い入れるということはそれだけではない。一方で、その300人からは、それぞれ自身の給与について、福利厚生について、業務内容について、あなたに頻繁に質問を浴びせてくるだろう。あなたはその300人の生活を背負っているわけなので、当然公私の別はなく、常に考え続けること、動き続けることを余儀なくされる。休みがあるようでいて、その頭の中は常にその300人のことを、自分の事業のことを考えるのに終始するはずだ。おそらく、多くの人がそんな生活は無理だ、と思ってしまうことだろう。

社長は、社内の現状と将来を常に考え続けている。それに対して、打てる手を打ち、自身で動けるところは動く、という行動をとる。直下に、それらの検討や対策・実行などをサポートしてくれる人材がいれば、その作業は幾分楽になる。これが、いわゆる経営陣であり管理職だ。

しかし、トップである社長が最終的に全ての責任を持つことは変わらない。「社長の仕事は、決断することだ」とはよく言われる話だが、実はこれは「ある程度以上の企業規模」の話であって、中小企業の社長ともなると、現実的にさまざまな地道な作業も直接本人がやることとなる。

では、そんな「社長の主な1日」を考えてみよう。企業規模の大小はあれ、概ねどこの社長も似たような動きになるはずだ。まず、日中はさまざまな決済と社員からの相談、そして打合わせで終わる。それも分刻みの予定となる。社長によっては時間が空いた時に、社員である皆さんの作業状況を見に会社内を歩く、という人もいるだろう。

これは、社長として「従業員とコミュニケーションを深める」という意味で重要な行動だ。そして夜は、将来を見据えての人脈形成の時間となる。将来的な動き、日頃の業務の円滑化、受注のための営業等を目的とした会食、飲み会などが繰り広げられる。概ねこれで1日は終わる。

すると社長にとって、自身の考えを整理し、将来的な戦略を練る時間はいつなのだろうか。もうお分かりの方もいるかと思うが、それが「朝」なのである。「社長は早起きだ」「できる社長は早朝に動く」という話を聞いたことがあるかもしれないが、社長の一日を追ってみれば、「朝を活用せざるを得ない」のは当然のことと言える。

企業の規模は変われども、このような状況は会社のトップである以上、変わらない。以前「独立」に関する話をしたが、デザイナーが独立をし、スタッフを雇うようになった際には、このような「社長」としての責任と動きが生まれてくることになる。

〇「完璧な社長」なんて、いない

社長に対する思い込み。その2つ目は、「社長は完璧な存在である」というものだ。

これは以前も述べたが、この世界に「完璧な人間」など存在しない。同時に「完璧な組織」も存在しない。しかし、会社に雇われている人間は、つい無意識の中で「社長は完璧であるべき」「組織は完璧であるべき」と考えてしまう。

社長も人間である以上、一人で完璧な組織などつくれるはずがない。一人でできることには限界があるし、さまざまな見落としも出てくるだろう。それはみなさんと変わらないはずだ。

ではどうするのか。そこで、その至らないところを補うためにスタッフを雇うことになる。スタッフを雇って、助けてもらう。

つまり「そもそも完璧でない会社」は、スタッフに会社に参加してもらうことで「より完璧に近い組織」を目指すことになる。このことは、聞くとシンプルなことだが、会社に勤めている以上しっかりと理解していなければいけない概念だ。

〇「社員」はどうあるべきなのか

「もともと未熟な組織を、少しでも完璧なものに近づけるためにスタッフを雇う」。このように考えると「少しでも完璧な会社にするために、自分は何を期待されて雇われたのだろう」という考えに至る。雇われた以上、会社にはまだまだ「欠点」がある。

それを少しでもカバーしたいと思い、スタッフ募集を行っている。自分に期待された役割はなんなのか。これがデザイナーをはじめ、企業に雇われている人全員に思い返してほしい大事なことだ。

自分の役割は何か。しかし多くの場合、その組織を助けるために入ってもらったスタッフ達は、(特に新人であるほど)その意味を理解できず「組織は常に完璧であるものだ」と勘違いしてしまう。そして、その組織に「いるだけで」「与えられた作業をこなしてさえいれば」給料をもらえると思い込んでしまう。この勘違いが一般的な企業において、従業員の不平不満に発展することが多い。

完璧でない不満だらけの組織。その原因は経営者にだけあるのではなく、その組織をつくり上げようとするその組織全員に責任がある。経営者(社長)は完璧でない。

その「至らない経営者」の責任を問う前に、実は自身が口に出している不満や批判が、会社の雰囲気を悪くしてしまっているかもしれない。他者を責める前に、まず自分は会社の雰囲気をよくするために貢献できているのか。自分は、会社に期待された役割を十分に果たせているのか、を考えることは社会人として重要なことだ。

〇「自分から動く」という思考

私は日頃若手のデザイナーさんに「自分が望む状況は自分で作り上げるものだ」と話している。会社や上司を批判する前に、不満を口にする前に、自身の役割は何なのか、何を期待されて雇われたのかを考えてほしい。また、その不満を「会社や上司が何とかするべきだ」と考えてしまう前に「自分で動ける事はないのか」「自分がどう動けばこの組織を働きやすい環境にすることができ、どうすれば会社が利益を上げて成長していくのか」を考えてほしい。

おそらく、それは「経営者が期待している行動」の1つであるはずだ。会社は「言いなりになる人」を求めているわけではない。「自身で考え、動いてくれる人」をこそ求めているものだ。「自分がこの組織をもっといい組織にする。そのために自分ができることは何か」。

このように、自分に期待されている役割は何かを考えることが重要だ。どこの組織でも共通することだが、日頃から不平不満を口に出し、批判することが日常になっている人は、会社や周囲に微妙な顔をされ、内心では不信感を持たれることになる。一方で「自分にできること」を自分で探し行動できる人は、会社や周囲の人、そしてクライアントにも信頼されることになる。

経営者や上司に対して不平を言う時のほとんどの場合は「他人事」になっていることが多い。「自分はただ雇われてここにいるだけだ」「全て会社が何とかしてくれる」。そう思い込んでいる場合が多い。

そんな「他人事」な社員を会社はどう思うだろうか。その会社に入社した以上、その会社の方針を理解し、自身に期待されている役割を把握して動くことは雇われている者として最低限の義務だ。難しいことと思えるかもしれないが、是非このような視点で経営者と話をしてほしい。これらのことを自身で理解し、行動できるようになると、それが結果的に自身のモチベーション、やりがいをつくり上げることになるだろう。

〇デザイナーと経営の関係を考える

「経営」というビジネスの領域とデザイナーがどう向き合えばいいかについて、視点を移して考えてみよう。

まずは、一旦視点を出展者側に戻してみる。

おそらく多くの展示会関係者の方々も感じていると思うが、日頃、さまざまな出展者と接していると、会社によって「展示会に対する意識」が少しずつ異なることに気が付く。特に、「中小企業」と「知名度のある比較的規模の大きい企業」との展示会に向き合う意識の差はとても分かりやすい。

例えば中小企業の場合、打合せには社長や経営に近い立場の方が参加することが多い。そのため、話題は自然と「どうすれば出展の結果が出るのか」「どんな結果を出すべきなのか」「展示会出展後の売上をどうしたいのか」といった、かなり経営的な、直接的なものが打合せの話題に出てくる。

一方、大手企業の場合は少し様子が異なる。展示会の担当者がいて、その上に上司がいて、さらにその先に経営層がいる。つまり、経営層まで「距離がある」。

社内にはさまざまな関係者が存在するので、担当者はそれぞれの意見をまとめながら展示会を進めていくことになる。そのため、打合せでは「会社としてどう売上を上げるか」という話よりも「社内の要望をどうブースに反映するか」「ブランドイメージをどう見せるか」といった話が中心になることが多い。

〇目の前の担当者だけでなく、会社全体を見る

展示会の打合せでは、当然ながら我々は(展示会出展)担当者と話をする。そこで担当者から「この商品を一番目立たせたい」「ここに壁を立てたい」「商談スペースをもう少し広くしたい」といった要望を受ける。もちろん、その要望を聞くことは大切だ。しかし、言われたことをそのまま形にすることがデザイナーの仕事ではない。

以前からお伝えしているが、それではただのオペレーターだ。出展者の「成功」を考え、相手を出展成功に導くためには「担当者」だけを見ていてはいけない。そうではなく、相手の会社「全体」を見据える。相手の「経営者の想い」を見据えることが大切になる。だからこそ事前の情報収集の際に、経営者の言葉を読んでおくことや、会社としての経営方針的な情報を調べておくことはとても重要なこととなる。

デザイナーは常に「本当のクライアントは、担当者ではなく会社そのものだ」と考えてデザインすることが大切だ。

しかし「そうは言っても、担当者の要望を聞かないわけにはいかない」「機嫌を損ねるわけにはいかない」と心配する人も出てくることだろう。

もちろん、その通りだ。

そこで「担当者」の立場に一度立ってその心理を考えてみよう。

クライアントとは言え、相手も「会社員の一人」であり、経営者とはなかなか会う機会のない立場かもしれない。展示会出展においては、定期的に進捗を社内で報告することが求められる。だから、打合せの席では「このような資料を作ってくれますか?」「次、社内会議がいつなので、それまでにこんな資料をいただけますか?」などといった会話が出てくることになる。それらは全て「上層部にどう報告するか」という視点で指示をされる。

相手も自分たちと同じ会社員だ。どうしても、上層部とは距離がある。距離があるからこそ、経営者の想いは、我々業務を依頼された側には見えにくい。

しかし基本はビジネスの世界だ。我々展示会関係者側からは見えにくくとも、先方の経営者も当然「展示会出展の成果はなにか」「売上を上げるための施策はなにか」を真剣に考えているはずだ。

このような状況を把握すると、デザイナーがとるべき立場が見えてくる。

それは「担当者に寄り添う」ことだ。先方の担当者は常に「上層部にどう説明しようか」という考えが頭の中にあるはずだ。そこに対して、説明しやすい資料、説明しやすい考え方を伝えると、彼らは安心して社内で報告ができるようになる。

我々デザイナー側から「社内報告には、このように説明してはいかがでしょう?」「説明には、この資料をお使いください」と言って資料を先んじて渡すことができれば、先方の担当者はとても安心し、助かると感じることだろう。

しかし、もしこのような状況下で、デザイナーがただただ「これは素晴らしいデザインです」とプレゼンしたとするとどうだろうか。先方の担当者にすれば頭のモヤモヤは晴れない。「この案を社内でどう説明すればいいのだろうか」「これをちゃんと社内で説明できるのだろうか」と不安になるかもしれない。

だからこそ我々は「このようにデザインしました」とプレゼンするのではなく、「このように勝ちます」でプレゼンをする。さらには「売上を上げるために、今回の出展をこのようにしませんか」とまで言えるように、なる。

このことが、客先との良好な信頼関係を築く上で大切なこととなる。

〇「デザイン軸」から「成功軸」へ

出展者は中小企業も大手企業も、見え方の差こそあれ、展示会を活用して「どのように売上を上げるか」を考えている。

経営層が打ち合わせに参加することの多い中小企業のように「経営的な視点を踏まえたデザインアドバイス」をするのか。それとも「一担当者」が参加する大手企業のように「寄り添い型」で業務を進めるのか。その違いはあるものの、展示会が経営に密接に関係している企業施策である以上、デザイナーは「経営的な目線」を持っていなければいけない、と感じている。

しかし自身で経営を行っていない人にとって、いきなり「経営者目線を」と言っても現実的ではないだろう。私も、全てのデザイナーの皆さんに、経営者のように決算書や財務諸表を読めるようになるべきだ、と言いたいわけではない。

そうではなく、日頃のデザインの思考方法、思考基準のあり方をこそ変えるべきとお勧めしたい。

デザイナーの皆さんは、ブースのデザインを考える際にどのように考え、どのようにプレゼンしているだろうか。

私がお伝えしたいのは、デザインを考える際に「どうデザインをするか」「どう商品を置くか」という「デザイン軸」で検討を行うのではなく、「相手をどう成功させるか」という軸で考えること。

つまり「デザイン軸」から「成功軸」へ思考をシフトすることが大切なのだ。

全てのデザインを常に「どう成功させるか」という基準で考えていく、ということ。

「集客するために、展示台の高さはこうあるべき」

「集客するために、ここに壁面を設ける」

「人を引き付けるために、ここにこのような言葉を掲示する」

全ての検討項目にはこのような「集客するために」と言った接頭語が付くイメージだ。

そしてプレゼン時には、これらの言葉に加えて「会社の売上を上げるために」という言葉が付くとなお、いい。

常にこのような視点でデザイン検討を進めることができるようになると、企業規模に関わらず相手から大きな信頼を得ることになるはずだ。難しそうに思えるが、まずは「デザイン軸」から「成功軸」へ、自身のデザイン軸を徐々に変えていってほしい。

展示会に関わる人間にとって「経営」は知っておいた方がいい概念だ。このことに加えて、日頃の業務を円滑に、かつ自分らしく行うためにも、是非興味を持っていてほしいと思う。

以前「1人ひとりが、自分の会社を持っているように行動する」という主旨の話をした。この観点からも、自身を「自分という会社」の経営者と捉え、日頃の業務に立ち向かってもらいたい。

そうすると、間違いなく自分の目の前の世界が、変わって見えてくるはずだ。

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